見慣れた狭いコンパートメント。もう何度乗ったことだろう。鞄から覗いた薄く黒い背表紙を撫でる。冬休みをマルフォイ邸で過ごした際に発見した日記だ。休暇中案内された、闇の魔法道具が溢れる部屋の片隅に置かれていたものをすり替えたのである。
「アリア、パーティーはどうだった?」
「私には合わなかったみたい。」
興味深そうに尋ねてくるリリーに苦笑を返すと、それもそうよねとあっさり興味が薄れたようだった。ダンスも食事も楽しむ暇などなく、ポッターと言い争っただけで終わってしまったことを思い出し気分が急降下する。
「突然いなくなったかと思えば、心配したんだぞ。」
「ごめんねったら、セブ。」
指定した場所に大人しく私が居なかったため、セブルスには大層心配をかけたらしい。純血貴族ばかりのパーティーで何かあったのではと気が気ではなかったようだ。とてもじゃないがポッターとのことは言えなかった。ただでさえ心配をかけて怒られているのに、火に油は注ぎたくない。
「無茶はするんじゃない。目の届く範囲にいてくれ。」
弾かれたようにセブルスを伺う。やはり双子だからなのだろうか、私がよくないことへ足を突っ込んでいることになんとなく気づいているようだった。大丈夫、その気持ちだけで私は充分戦える。
「うん、約束ね」
息を吐くように嘘を重ねるにつれ、罪悪感に押し潰されそうだった。
「洞窟にあった、ロケットの奪取に成功した。これが最後の分霊箱、ここまで迅速に事が運んだのはアリアの働きがあってこそじゃ。感謝しておる。」
校長室に揃えられた、貴重な品々。それらはすべて闇の帝王の分霊箱で、邪悪な闇の魔術の産物だ。ようやく、時が来た。ここまで来るのにダンブルドアの力添えがあってもなお、一年以上の月日が経過していた。自分一人で何とかしようとしていた過去の私の浅はかさに呆れてしまう。
「……いつ、すべてを破壊するのですか。」
分霊箱を破壊すれば、本体の魂へ何らかの形で影響が出る。ヴォルデモートが気づかないはずがない。髪飾りだけならまだしも、すべての分霊箱となると話は大きく変わってくる。
「心配はいらぬ。…来たるべき時、必ずおぬしへ知らせよう。」
それまでは肩の荷を下ろし学業に励むとよい、と言われてしまえば教師と生徒。従うのが利口だ。張りつめていた空気が和らぐ。
「この件はわしに一任してもらうとして、日々の生活はどうじゃ?」
「……特になにも。」
「ほっほっほ、そうかそうか。」
「…何が聞きたいんですか?」
「なに、アリアから異性の話題が出るのはセブルスばかりだと思ってな。」
なにを突然に。訝し気に睨めばお茶目なウィンクが返ってきた。爺と恋バナをするなんて気色の悪いことできるか。
「興味ありませんので。」
「アリアが興味はなくとも、周りはおぬしが気になっておるじゃろうて。」
「どうでもいいです。私はセブルスが一番なので。」
来月にはO.W.Lも控えている。そしてこの年はリリーとセブルスが決別してしまう大事な年だったはずだ。それはなんとしても避けたい。もちろんヴォルデモートの件も気がかりだけれど、あの二人も放ってはおけない。
「アリア、おぬしを愛する人を信じるのじゃ。」
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