寮も広場も廊下も、目に入る全ての景色が橙色に染まっている。ギラギラと目を光らせたジャックオランタン。加えて辺りに漂う甘い芳醇な香りで酔ってしまいそうなほど。そう、今日はどんな悪戯も許される陽気なハロウィン。ダンブルドアが率先してイベント事を楽しむせいで、生徒の悪ノリに拍車をかけている。


「アリア、トリックオアトリート!」

「はい、どうぞ。」

「ありがとう!とっても美味しそう!」


見渡せば普通の格好をしている方が浮いている気がしてきた。シーツに身を包んだだけの者もいれば本格的に仮装をした者もいる。目の前にいる彼女はといえば不思議の国の少女の格好をしていた。元から綺麗な金髪なのでよく似合う。


「どこで買ったお菓子なの?可愛いのね」

「私が作ったの、手作りよ。」

「え、アリアが?すごいわ!」

「ありがとう。」


興奮したナンシーが抱き着いてきたため、ふらつきながらも受け止める。すごいすごいとはしゃぐ彼女を見ていると頑張って作った甲斐がある。


「ちなみに、お菓子がないときの悪戯は何をするつもりだったの?」

「魔法で動物の耳を生やす悪戯!アリアならネコかな?」

「……そう。」


そういえばナンシーは変身術が一番得意だった気がする。それを応用した魔法ということだろうか。悪戯されなくて本当に良かった、お菓子をきちんと用意した自分を褒め称えよう。


「お菓子の食べすぎには注意してね。」

「うん!さて、他の人たちからもお菓子を回収しないと。」


今持っているバスケットは既に溢れそうだが、まだお菓子を集める気らしい。イベントを大いに満喫している彼女を見送り、本来の目的である広場へと向かう。リリーと待ち合わせをしている為あまり待たせるわけにはいかない。


「アリア、トリックオアトリート!」

「……。」

「あれ?無反応?」


突然視界に入ってきた人影と光のフラッシュに目を丸くする。驚愕して固まってしまった私の目の前へずいっと顔を近づけてくるため、その分後ろへと身体を引いた。


「驚かせないで、ポッター…。心臓に悪いわ。」

「ごめんごめん。」

「なんだか目がチカチカする…。」

「アリアの驚いた顔が見たくてね、悪かったってば。」

「相変わらず趣味が悪いのね。」


最近は大人しくなったかと思えばすぐこれである。何度か瞬きを繰り返しようやく視界が正常に戻ってきた。と、手の平を差し出しこちらを見つめる彼があざとく首を傾げていた。一体なに。


「さっき聞いただろ?トリックオアトリート。」

「あぁ、なるほどね。…はい。」

「……。」

「なに?」


ポケットからキャラメルと飴を取り出し、彼の手の平へ乗せる。一気に不満げな顔に変わった彼は、お菓子を握り締め詰め寄ってきた。


「これしかないのかい?」

「数が少なくて不満なの?悪いけど、それ以上の手持ちはないわ。」

「……そうじゃなくて、」

「あとはリリーとセブの分だから。」


ピシリと彼の空気が固まった気がする。俯いたままなにかを考え込んでいるようでイマイチよくわからない。そういえば、ポッターとあまり二人きりになるなと口酸っぱくセブルスから言われていたことを今思い出した。この状況を見られでもしたらかなり不味い。


「あなたならきっと色んな子がくれるわ。じゃあ、また。」

「待って。…僕は他の子からのなんて興味がないよ。アリアのがいいんだ。」

「……足りないの?でも、」

「…それ、君の手作りだろ?」


彼の視線が刺さる先には、私が昨日焼いたカップケーキがある。見た目はハロウィンらしくチョコやクリームで飾り付けされているが、味の保証はできない。しかもどうして私が作ったことがわかったのだろうか。


「君のがいいんだ。」

「え、」

「アリアが作ったものが食べたい。」


じっと見つめられ居心地が悪くなる。別に私が作ったからといってパティシエのような出来のものが完成するわけでもない。彼が拘る理由が思い浮かばない。かといって出し惜しみするほど作るのに苦労するわけでもないので、拒否し続けるのもなんだか気が引ける。


「……わかった、今度でもいい?」

「…それはダメなのかい?」

「これはダメ。…今度、あなたのために好きなお菓子を作ってあげるから。」

「本当に?」

「感謝してちょうだい。」


なんだか照れくさくなってしまい、そっぽを向いて誤魔化してしまう。あんなに嬉しそうな顔をされるとは思わなかった。頑張って作ろうと思ってしまうあたり、私もだいぶ単純だ。


「ありがとう、アリア!夢のようだよ!」

「大袈裟に言わないで!あと離れなさいポッター!」


興奮したように抱き締めてくる彼を必死に引き剥がす。何がそんなに喜ばしいのかは分からないが、抱き締められているこの状況は非常に良くない。後頭部を引き寄せられ頬に柔らかな感触が触れたかと思えば、榛色の瞳を細め楽しみにしてるよと言い残しご機嫌に去っていった。


「やだ、アリア!顔が真っ赤よ、大丈夫?」

「平気……」


全然平気じゃない。触れられた頬の感触が消えない、なんて恥ずかしいことをしてくれたのか。彼に思いを寄せているであろうリリーをまともに見れない。どれだけ言い訳しても彼女の顔は心配そうに曇っていくばかり。申し訳なさと罪悪感でいっぱいだった。




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