瞬きをする度にいつもより重い睫毛が気になって仕方がない。履きなれないハイヒールも緩く巻かれた髪の毛も身体のラインがよく分かるドレスも全てがいつもと違う。鏡に映る自身の姿を見れば、自信なさげに眉を下げた私が居た。ただ、普段しないメイクアップをして綺麗な服を着ているだけなのに自分じゃないようで。
「……よしっ、」
ちらりと時計を見ればそろそろ行かなければならない時刻だった。同室の友人やナンシーは、三十分も前に部屋を出ていったので今はもう私しかいない。今日はできるだけ笑顔で楽しもう、鏡の中の私に微笑むとドレスを翻しドアノブへと手を掛けた。
待ち合わせ場所は広場の大時計の下。左右に伸びた階段上の広場から見下ろせば既に待っている人影を見つけ慌てて階段を下りる。気配に気づいたようで階段の下まで迎えられると、エスコートされるように伸ばされた腕へ手を添える。
「お待たせしました、ルシウス先輩。…お久しぶりですね」
「あぁ、アリア…とても綺麗だ。まるで御伽噺のお姫様が飛び出してきたかのようだよ。」
「…あまりそういうことを言われると、困ります。」
「揶揄っているわけではないさ。…私も婚約を決めるのを早まってしまったかな?」
「ご冗談を。」
さらりと称賛の言葉を並べる彼に頬が熱くなる。これだから…と思いつつ熱くなった頬に手を添えられますます体温が上がった気がした。リリーを探し回り疲れ果てていたあの日、たまたまホグワーツを訪ねていたルシウス先輩と再会した。ヴォルデモートが失脚した後マルフォイ家ももちろん裁判にかけられたが、なんだかんだでアズカバン行きにはならなかったらしい。近々ナルシッサさんと結婚するのだと話していたため、こうして二人で話せるのはきっとこれが最後だ。
「私の為にパーティーへ参加してもらって…ごめんなさい。」
「いや、寧ろ光栄だよ。まさか私がパートナーに選ばれるなんてね。」
「無理を言ってスケジュールを空けてもらって、感謝しています。」
「他の男に任せるのも気に食わない。…さぁ、着いたよ。」
腰に添えられた腕に身を任せ、くぐった扉の先には多くの生徒がテーブルを囲みパーティーの始まりを今か今かと待ちわびていた。以前は他寮と関わることを一切嫌っていたスリザリン生も様々な寮の生徒と手を取り合っている。横にいるルシウス先輩を見上げれば複雑そうな表情をしているが、前ほど嫌悪さは感じられない。色々思うところはあるのだろうが、ホグワーツに関わることも少なくなった今無闇に口を出すつもりもないのだろう。
「よく来てくれたの、ルシウス。」
「これはこれは…校長自らお出迎えとは光栄ですよ。」
すっとルシウス先輩の空気が冷たくなったがダンブルドアは気にした様子もない。パートナーがどうしても見つからなかった場合ルシウス先輩を招待したいとダメ元で彼にお願いしたところ、何故か通ってしまった。実のところパートナーの申し込みがなかったわけではない。が、知らない人と行ける程コミュ力も高くないため丁重にお断りさせていただいた。そうして、もう生徒ではないルシウス先輩が私のパートナーとして呼ばれたというわけである。一言二言交わすとパーティーの始まりを告げる為ダンブルドアは去っていった。卒業生であるルシウス先輩を遠巻きに騒ぎ立てていた生徒たちも、ひとたび音楽が流れ始めれば意識が逸れる。
「さぁ、プリンセスお手をどうぞ。」
「よしてください。…頼りにしています、ルシウス先輩。」
正直なところ踊れる自信がない。付け焼き刃で練習したステップで彼の隣に立つなど烏滸がましいにもほどがある。女性のリードに慣れているという彼に全面的に甘えることにしよう。
「……感謝しているよ、アリア」
「……なんのことでしょう?」
密着した身体により顔の距離も近くなる。音楽に乗せ囁くように告げられた言葉には薄ら微笑むことで受け流した。彼の裁判の時、ダンブルドアに助けを求めたことをいっているのだろうか、それとも?感謝される心当たりがないわけではないけれど尋ねるような無粋な真似は必要ない。ただ私は、私の大切な人たちが幸せであればそれでいい。過程はどうであれ結果がすべて。
「ナルシッサ先輩との結婚式は、是非とも参加させてくださいね。」
「あぁ、もちろんだ。」
脳裏に浮かべた彼女を想い優しく笑う彼を見ていたら、ほんの少しだけ報えたような気がした。
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