続けて流れていた音楽が止まり小休憩の時間が訪れる。私の一時的なパートナーとして参加をお願いしていたので、ルシウス先輩とはここでお別れだ。(婚約者がいる身の人をいつまでも引き止めるわけにもいかないし)
「貴重な最後の年のパートナーが私でよかったのかな?」
「むしろ、身に余る光栄です。」
「ふっ、アリアならいくらでも相手がいただろうに。」
踊りたいと思う異性はいなかったのか、と聞かれ一瞬頭の中でとある人物を思い浮かべる。ないない、と首を左右に小さく振り否定の言葉を並べておいた。言ったところでなにが変わるわけでもないしルシウス先輩へわざわざ伝えるべきことだとも思わない。
「では、ここで失礼するよ。」
「はい、ありがとうございました。」
「素敵な夜を。」
頬に軽いキスを落とすと整った顔が離れていく。去り際にさらりと項を撫でられぴくりと大袈裟に肩が跳ねてしまった。これだから英国人は…っ。
「もう!戯れは止めてください…っ」
苦し紛れに小言を言っても、背を向け歩き出したルシウス先輩は小さく手を挙げ振り向くことはなかった。在学中から私を揶揄うのを趣味にしていたところは相変わらずのようで、深く息を吐くことで自分を落ち着ける。再び流れ始めた音楽が聞こえ少し離れた会場を見渡すと、皆思い思いの相手とステップを交わしていた。ずっと同じパートナーと踊らなければいけない決まりもない。私はルシウス先輩以外と踊る気もないため、このまま寮へ戻ろうか迷う。パーティーが始まってからドリンクしか口にしていないためお腹が空いてしまった。ドレスを着ている状態でお腹が出ているのはみっともないので遠慮していたが、もう踊る予定がないのなら構わないだろう。
「やっと見つけた…!」
「えっ」
いきなり手首を掴まれ何事かと振り返る。息が上がり、きっちり着こなしていたであろう正装を少し着崩したポッターがいた。とりあえず息が整うまで待とうと思い、じっと見つめていれば落ち着いたのか正面から見据えられる。
「なにか用?」
「……一緒にいたルシウス・マルフォイは?」
「あぁ、今さっき帰ったところよ。」
頬を掠めた熱を思い出し収まった羞恥心がぶわりと顔を出す。せっかく少し忘れかけてたのに…。ガラス越しの榛色がすっと細められた気がしたが、何もなかったかのように両手を取られる。
「なら、僕と一緒に踊ってくれないかい?」
「あなたと?…冗談やめて、パートナーの子はどうしたの?」
ルシウス先輩と踊っている時ちらりと視界の端に映った男女。意識して見ていたわけではないけれど見知った顔に視線を止めたのは事実だった。一緒に踊っていた女生徒はグリフィンドールでも指折りの美人で、顔は悪くないポッターと並べばそれはそれはお似合いの二人の出来上がり。
「誘われて、一曲だけの約束で参加したんだ。」
「……そう。」
「本当さ、それに彼女とは深い関係もないしね。」
「…それを私に言い訳してどうしたいのかしら?」
思いのほか冷たい声が自分から発せられはっとする。これ以上ここにいてもいいことなんてない、やっぱり寮に帰ろう。握られた両手を引き戻そうとすればぴくりとも動かない。訝し気にポッターを見上げれば距離の近さにどきりとする。
「誤解してほしくなかった。…他の誰でもないアリア、君にだけは」
魔法にかけられたかのように瞬き一つできない。彼の一挙一動を言葉すら発せずただ見つめる。まるで王子様かのように恭しく跪くと、右手の甲へ触れるか触れないかのキスが落とされた。
「僕を選んで、アリア」
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