ダンスフロアから流れる音楽が酷く遠くに聞こえる。私とポッター、二人きりの廊下はまるで時間が止まってしまったかのよう。


「……ごめんなさい、あなたとは踊れない。」

「…どうして?」

「ルシウス先輩としか踊るつもりはなかったの。だから他の人からの誘いも断ったわ。あなただけを贔屓できない。」

「……ルシウス・マルフォイのことが、好きなのかい?」


思いもよらない質問に目が丸くなる。一瞬何のことかと思いきや、まさかそんな勘違いをされるとは。


「ふふ、冗談やめて。婚約者がいる身の人よ?横恋慕する気も叶わない恋に身を焦がす気もないわ。」

「……なら、」

「私はセブルスが幸せならそれでいいの。今日だって、リリーと彼を見るためだけに参加したようなものだから。」

「君は?」

「え?」

「……アリアの幸せは、どこにあるの。」


セブルスもいつかは私の傍を離れていく。ずっと一緒に居られないことなんて分かっていた。それでも彼が幸せになることだけが私の人生の全てで、その為だけに生きてきたのに。
目を逸らしてきた訪れるであろう、いつかの未来。


「ねぇ、僕を選んでよアリア。ダンスのパートナーだけじゃない、君の未来を共に歩む資格を僕に頂戴。」

「……意味が分からない、やめて。」

「アリアが好きなんだ、もうずっと。君がいればそれでいい。」


差し伸べられた両手を拒む方法が分からないまま、そっと包むように抱き締められポッターの腕の中に収まる。小さく震えていたのは私か彼か、それとも二人だろうか。


「僕と生きて、アリア。」


あぁ、もう逃げられない。
瞼から零れ落ちた雫は彼の温度と混ざって消えた。







「やぁ、アリア!朝から君に会えるなんて僕はなんて幸せ者なんだろう、世界が輝いて見えるよ。」

「おはよう、ポッター。頭のネジでも外れたの?」

「酷いな、でもそんな冷たい君も素敵さ!」


スリザリンの寮から朝食を食べに向かう途中。廊下中に響き渡った賛美の言葉に道行く生徒が何事かと振り返る。一緒に向かっていたセブルスも、ポッターのお仲間も後ろで石のように固まってしまっていた。そんな私も、彼の豹変ぶりに内心驚きを隠せない。


「ポッター、頭でも湧いたか?それとも妙な薬でも口にしたのか?」

「相変わらず失礼な奴だな、スネイプ。僕は自分の気持ちに素直に生きることを決めたのさ。」

「いつだって素直に好き放題してきただろう。お前が謙虚だったことなど一度だってあるものか。」

「君と争ってる暇はないんだよね。僕はアリアに…って、あぁ!待ってよアリア!」


セブルスと言い合いになっているのをいいことに、さっさと歩き出せば後ろから姦しく騒ぎ立てながら名前を連呼される。彼に羞恥心というものはないのだろうか。
セブルスも置いてきてしまったが大広間まで行けば食事をする寮テーブルは別々だ、それまでの辛抱。朝食の時間は尋問の時間へと変わるのだろうな、と何処か他人事のように思いを馳せながら足を動かし続けた。

しかし私の甘い考えは脆くも崩れ去る。
図書館にいるときも少しの移動の時間であっても、どこからともなく現れ人目を憚ることなく飽きる様子も見せずに賛美の言葉を並びたてた。これには生徒だけではなく先生たちまでもざわつき大きな波紋を広げた。上級生はダンスパーティーのためほとんどがホグワーツに残っている。下級生がいないとしても噂は学校中に瞬く間に広まった。

お陰様で私の休まる時間は一時もなく、新手の嫌がらせだというのなら大いに成功であろう。


「大丈夫か、アリア。」

「えぇ、そうね。今すぐ全員石にしてやりたいくらいにはムシャクシャしてるわ。」

「……。」


私の機嫌が最高潮に悪いことを察したのか、何も言わずにそっとチョコレートタルトが差し出される。有り難く受け取りむぐむぐと口に運べば少しは気分が落ち着いた。


「ポッターは一体どうしたというんだ。何か心当たりはないのか?」

「……ないことも、ないんだけど」

「!なんだ、何があった。」

「お、落ち着いてちょうだい、セブ…」


いつも以上に眉間に皴を寄せ詰め寄られると中々の迫力がある。スネイプ先生の片鱗が見えたような気がした。とりあえず掻い摘んでダンスパーティーでの出来事を話せば、大きく溜息を吐いて頭を抱えてしまった。


「一つ確認させてほしい。」

「なにかしら?」

「…もうポッターとの確執はなくなったんだな?アリアは奴に好意を抱いている、間違いないか?」

「……そうね、そうだわ。そのとおりよ。」

「……。」

「軽蔑した?あんなにも嫌っていた酷い人を好きになって。」


膝の上に置いた両手をぎゅっと握り締める。私自身の気持ちに折り合いがついたからといって、セブルスもそうとは限らない。どう思われたとしても受け止める覚悟はできていたけれど、やはり不安は拭えなかった。


「ポッターというのが気に食わないが、アリアが選んだ相手ならば僕が口出しをする権利などない。」

「…セブ、」

「だが素直に応援する気もないからな。…アリアを幸せにできないような奴に渡す気はないぞ。」


嬉しくて思わず勢いよく抱き着く。少しふらつきながらもしっかりと抱き留められそのまま頬に軽くキスをした。照れながらも背中に手を回され不器用な愛を感じる。


「ありがとう、セブ。」

「僕は何もしていない。」

「…それでも、嬉しかったの。」

「…あぁ。」


瞳を閉じて感じるぬくもりに身を任せる。暫く抱擁を交わしたあとそっと肩に手を置かれ身体が離れた。


「……僕は用事ができた。アリアは寮で大人しくしていろ。」

「え!待って、セブどこに…」

「野暮用だ。すぐに戻る。」


颯爽とローブを翻し勇んで去っていく姿を呆然と見送ることしかできなかった。どこに行くつもりなのだろうか…もしかしてポッターのところに、と考え首を振る。そんなことをするようなタイプではないし、本当に用事を思い出したのだろう。

この考えが大きく覆されるのは約一時間後の出来事である。




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