1話

「せいはいせんそうに、まきこまれた?」
「うん。私も状況を仔細知っているわけじゃないけれど、それは確実かな」

今は家。お母さんの目を誤魔化してセイバーさんを部屋に押し込み、状況説明を受けていた。
これがまあ、とんでもないのだが。

「じゃあ、私を襲ってたのはサーヴァント?なんですか?」
「敬語はやめてほしいな、マスター」
「あ〜、えっとだから、私を襲ってきたのはサーヴァントってことなんで、なんだよね」
「別に全て言い直す必要はなかったんだけれど」
「ごめんなさい」
「マスターがサーヴァントにそう謝るものでもないし、結局敬語が抜けていないよ」

変わったマスターだね、とセイバーさんが笑う。私は決して変わっている方ではないし、今こんなに私がぎこちなく会話をしている理由は情報量の多さと自分の部屋にイケメンがいるという混乱からだ。普段の私ならこんなことにはなっていない。

「質問に答えると…まあ、そうだね。サーヴァントと出逢う前に楔であるマスターを殺した方が効率としてはずっといいから」
「私には戦う意志がないのに?」
「なくても、だよ」

とんでもない世界だ。いや、薄々気づいてはいたけれど。とんでもないって感想が出るの2回目だけれど。語彙力いろいろ足りなくなってるけど。
怖い。なんで私が巻き込まれてしまったのだろうか。セイバーさんは私には魔術を使うための器官が備わっているとは言っていたけれど、そんなこと知ったこっちゃないのだ。どうしたって私はただの一般人に過ぎない。

「とりあえず、今の状況の概要は大体説明できたかな。君は、この戦いに参加するかい?」

セイバーさんはローブ?のような布の中から手を差し出した。黒い手袋がつけられていて、大きい。
参加できるかい?、じゃないんだ。この人は、私の器ではなく意志を訊いている。

「君はこの手を取らなくてもいい。いますぐ、降りることもできる」

願わくば、降りてほしい。目はあまり見えないけれど、そういう心がこの人からは滲んでいる。そりゃあそうだ。なにも知らない、ただの女子高生とパートナーになるより少しでもマシな人がいいに決まっている。

「…わたしが降りたら、あなたのマスターは誰になるんでしょうか」
「それはわからない。老人かもしれないし、生まれて間もない子どもかもしれない。そのどちらも、避けたいところではあるけれど」

こども。私よりもずっとちいさな人。
私は正義の味方ではない。委員長をやるような責任感もないし、品行方正を地で行く優等生でもない。おつかいのお釣りをあわよくば自分のお財布に入れようかななんて思うこともある。将来の夢も大事だけど、それよりも今日の夜ご飯のメニューが気になるただの凡人だ。
正直言って、降りたい。さっきみたいな怖い目には遭いたくない。私が降りた後、セイバーさんはもっと当たりのマスターに当たる可能性だってある。
足の怪我がズキズキと痛む。あまり深くないとはいえ、日常生活をしている中では絶対に負わない傷だ。

「…あなたは、」
「うん?」
「あなたは、私がマスターになったら絶対に守ってくれますか」

私の大切なもの全て。
大分無理なことを言っている自覚はある。
それなのにセイバーさんは私の言葉を聞いて、キョトンとした顔で首を傾げてから、「当然のことを尋ねるね」と笑った。
このとき、私の運命は定まった。
この人の中では人を守ること、マスターを守ることはきっと当然の行為なのだ。それならば仕方がない。
綺麗な人だ。外見年齢はそう変わらないはずなのに、どこか色っぽい。

「よろしくお願いします、セイバーさん」
「ああ。改めてよろしく、我がマスター」

軽く細められた目元には宝石みたいな色が瞬いていて、私も何故か目を細め、彼の手をとった。