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▼109.蜜柑色/仁王
20161016 109.蜜柑色秋が苦手だ。すぐに肌寒くなって、一日がぐんと短くなる。夜は嫌いじゃないはずなのに、とても寂しく思ってしまうのだから、秋なんて嫌い。
「何見とる」
フローリングに寝そべる私の視線にようやく気が付いたのか、鬱陶しそうに目を細めた。
別に、と仁王から顔をそむけると、窓から大きく差し込むオレンジ色の西日に目が焼ける。
「眩しいからカーテン閉めて」
「お前さんのほうが近い。手を伸ばせば届くじゃろ」
「ええ・・・面倒くさいよ。ちょっと距離あるよ」
「起きるか転がれ」
「フローリングの上を?痛いじゃん」
「そこに寝転がってるのはどこの誰じゃ」
「そんな私のお隣で一緒にごろごろしてるのは誰でしょうねえ」
くだらない内容をやり取りしながら、結局一歩も動かない私たち。ぐだぐだ病。動きたくない病。
私たちを見かけるたびに「お前らってデートとかいつもなにしてんの?隠居生活?」と真顔で尋ねる丸井のことを思い出した。
「私たちが何かしてるってそんなに重要なことなのかな」
「ん」
とりあえず窓に背を向けて横向きになると、雑誌に目を通しながら仁王が生半可な返事。
「お出かけするにしても、何か食べるにしても。別に特別なことなんて必要じゃないのにね」
一番苦手なことも、一番好きなことも。べつに何でも構わない。
仁王と一緒にいられるこの空間が好きなんて言っても、丸井にはわからないんだろうなあ。
読み終わったのか、飽きたのか。ぽいとテーブルに投げられた雑誌を目で追った。
「あれはじっとしてられない性分じゃから」
「丸井のこと?」
あくびをしながら「ああ」という仁王にまで西日が刺さる。
眩しそうに目を細める姿は絶対にネコ科だ。
「もう夕方か」
のろのろと起き上がった白い指がカーテンを引っ張った。
寝そべったままの私にかぶさるように、窓を閉めようとする袖口をつかむ。
訝しげに私を見下ろす白い肌に夕日が映えて、嫌いだった肌寒さも、悩まし気なオレンジ色も、仁王の前では一瞬で晴れる。
両手を銀髪の後頭部に回してひきよせれば、顔が近づいて重力で後ろ髪が垂れる。首にあたってくすぐったい。
狭いワンルームの部屋だって、フローリングの上だって、憂鬱な秋の夕方だって、キスができればどこだっていい。
仁王もそう思っていてくれるなら、もっといい。
(2018/01/02)