Sub rose

目次に戻る
いつもは早く終われと念じているのに亀の子なみにゆっくり進む授業が光の速さで終わってしまった現状を嘆きながらクラスメイトたちに泣きつく。

「なにとぞっ!!!なにとぞ!ご慈悲を!!!」

叫びすがりつく私に励ましの言葉をかけながら出て行くクラスメイト達。
この恨み…いつか、はらしてやるからなぁ!!!と言いたいのを我慢し、いつもの二人にも泣きついた。
まあ、案の定
獪岳には鼻で笑われたあと、部活あるからとさっさと出て行ったし、しのぶなんて、大丈夫ですとか言って優雅に出て行ったし……
そうだよ!!二人にも出ていかれたんだよ!!!この薄情もの!!!!
私の行動における心当たりはないけど、私以外の心当たりはあるからヒヤヒヤしてるんですけど?!


………。

あああぁぁああぁあっ!!もうっ゛!!行ってやるよ!!
というか、私が何でこんなにハラハラしなくちゃいけないわけ???!!!
別に悪いことしてないじゃん????
私じゃなくて今世の兄≠ェ学園長≠ニ因縁があるだけじゃん???
つまり、私が怯える必要がない!!証明終了!!!
自身の精神安定における対処法≠フQEDを強引にだし、心を幾分か軽くしたあと朝に指定された学園長室へと向かった。
学園長室だなんて学生時代絶対に行きたくない部屋No. 1だよね…
どうしてくることになったのか…。
私は終わらない負の連鎖を断ち切るようにドアのノックを響かせた。
どうぞ、という心地良い音の揺らぎを耳にした後部屋の中へと足を踏み入れる。
まあ、とりあえず。
ちゃんと対等に対処できるように兄を見習ってみよう。
あの人外面だけはいいからな…、そこだけ見習えば何とか取り繕えそうだ。
困ったときの神頼みならぬ、困ったときの兄頼みである。
平常心を保ちながら(保っているつもり)で礼儀を心掛ける。
爪先まで神経をとがらせて目の前の御仁に集中した。
野生動物の前で気を抜いてはいけない、そんな感覚を現代で味合うとは思わなかったわ…と全てをほっぽり投げて遠い目をしたかったがしのぶちゃんに怒られるようなそんな気がしたので気合を入れ直す。

「ごめんね、呼び出してしまって」

「いえ、とんでもないです。
 …あの、私何かやらかしてしまったでしょうか??」

「いやいや、私のところにそういう連絡は入っていないよ。なにか、心当たりでもあったかな?」

全力で首を振り、自分は無害ですよと子供ぽさを出してアピールする。
…前世の時は、本を読んでこの人の声ってなかなかのチート だよなと簡単に思っていたが、対面するとまた違った印象を得た。
1/fの揺らぎ…私と同じ世界線で生きている人、生きていた人ならわかる例を挙げるが、◯の◯野智、宇◯田ヒカルの歌声などが挙げられる。
まあ他にも、自然界の音とかに入ってるとかあるけど、
一番想像しやすいのは歌声だと思う。
喋っているときにどう活用しているんだろう、それができるっていうのはなかなかの芸だなぁと前世で思っていた。
実際喋ってみても どうなってるのかわからない。
わからないが、警戒心を無理やり宥められ押さえつけられるような感覚はゾワゾワするものがある。
どんな感情で挑むかによって体感は変わるだろうが、警戒心を持っているときに近づきたくはない感覚だ。

そんな内心怯える私を気に留めず、学園長は話を進める。

「今日はほぼ私情でね。
前回来てくれた時は君の意見を全く聞けなかった物だから聞きたかったんだよ。」

緩やかには微笑みながら、おいでと私が入ってきた扉とは別の扉に向かって手招きをした。
失礼しますと言って入って来た男の子達3人は学園長に本を渡す。
渡した後に出て行こうとしたのを学園長は止め、小さいソファに座っててもいいよと許可を出していた。
いきなり出てきた子供達に驚きを隠せないが、大丈夫ですか?と私に聞く子供達を拒否できるだろうか?できるわけない。小さい子供は正g(((((なので私の悪い話でなければと戯けながらも許可を出した。

「さて、前回も君のお兄さんに話してもらったが名前は公表しない方向でいいんだね??学校としては監視も警備も十分だし出してもらっても構わないよ?」

「いえ、あの本を書いたのは自己満足ですし…。
元々出版するつもりもありませんでしたから。」

そうかい?君がそういうならとにこやかに応答しながら、先ほど手渡されていた本のブックカバーをめくって机に置いた。
わぉ、まじか…私が書いた本じゃん…

「私の学校の生徒が書いた本だからね、読ませてもらったよ。文の構成も展開も素晴らしかった。」

「あはは…ありがとうございます。
学園長先生にそう言っていただけると嬉しいです。」

「家のリビングに置いておいたら、息子も娘もいつのまにか読んでしまっていてね…、それ以来ずっと繰り返し読んでいるから一回読んでからはわたしの手元になくてもう一冊買おうかと思っていたところなんだよ。」

ねぇ?と隣の子供に同意を求めた学園長に、少し照れたように笑う男の子達。
えっ??結構難しいと思うんだけど、小学生くらいに見えるこの子達読んだの??!!

「えっ??読んだんですか???!!!
…大丈夫ですか?あれなかなか過激だったと思うんですけど…」

「はい、人の世の中や、幸せ、正義などについて言及されたストーリーでとても面白かったです。」

あばばばばばと震えながら、ありがとうと言葉を返す。
そんなわたしを見ながら学園長は話を続けた。

「人間の強さや美しさが強調されたストーリーだったよ。
特に主人公の歪んでいることを理解してもなお、その性格を直さないところなどが人間らしかった。」

こくこくとうなずく、少年たちに癒されながらも学園長からの評価を素直に聞いた。
そこからは、長々と倫理観について話したりとか小説の内容について話したりなどした。

少年と
正義≠ニは何かっていう話をした。

そっくりな女の子二人と
人≠ニは何かという話をした。

話す私たちを外から見ていた学園長だったが、夕方になってしまったのでお開きにしようと声をかけた。
少し不満げにはいと返事をする少年たちに、よかったらまた話そうと提案をする。
後から考えれば、産屋敷家の五つ子だった子達だろうから難しい話にもついてこれるのだろうと納得した。

夕方遅くなってしまったので送って行こうか?と言ってくれたが近いので大丈夫ですと断る。
ほら、兄と会ったら…ね??想像しただけで怖すぎる。

帰り際に、よかったです…怒られたりするんじゃなくて安堵のあまり口に出してしまった。
まあ、ふふふと笑われるだけで終わったのだからよししよう!!

「ああ、ごめん。今回呼び出した目的を忘れるところだったよ。」

実は、と話し始めた学園長。
どうやら前回の話し合いの際、誰にも作者のことを言わないとなっていたのに対し、たまたま学園長の部屋を訪れていた五つ子たちが聞いてしまったらしい。
それに対してのお詫びと許可が主な用件だったようだ。
その要件を了承し、僕たちここの学園の初等部なのでまたお手紙書かせてもらいます!と嬉しい言葉をもらって学園を出た。
怯えていたほど怖い話ではなくてよかったと心を弾ませ、スキップで帰ることができた。
家に帰って、遅い!!と兄に怒られたがとてつもなく気分が良かったので軽く受け流し自室へと戻っていく。

ああぁああ!よかった!悪いこと起きなくて!!! 

- 6 -


*前次#


ページ: