「キバナさまのまごころ入りカレーまだありますかー?」
鍋の片付けをしていると、呑気な声が聞こえてきた。
振り向けば、待ち人の姿。
ジュラルドンが全部食っちまったよ、と言うと彼女はジュラルドンの食いしん坊め、と硬い金属の頬をコンコンと指で突いた。
ジュラルドンは申し訳無さそうに鳴く。
「遅かったな」
「まーた週刊誌にやられた、メディアも暇ね」
「あー、先週の試合の後のやつか」
疲れたわ、と俺が座っていたキャンプ用のアウトドアチェアにどっかりと座る。
なまえは、でんきタイプエキスパートとして、マイナークラスで活躍しているガラルリーグの選手。
そして、俺様の幼馴染みでもある。
その繋がりが仇になっているのか、メディアからはドラゴンストームの恋人だのお泊りデートだのと、一緒にいるところを撮られては、いつも叩かれている。
だから最近は人目を避けるように、夜も深まるワイルドエリアの片隅で、キャンプをする時ぐらいしか直接会わなくなってしまった。
これもいつ撮られるかなんてわからないのに、なまえはあんたに会うのが悪いことじゃないのよ、と笑ってわざわざ会いに来てくれる。
「明日の試合も叩かれるかなー、キバナのファンってたまに怖いんだよう」
「けどよ、俺様が庇うようなこと言うとまた叩かれるんだろ?」
「そー、だから黙ってて」
そう言って、両手で顔を覆いながら椅子の背もたれに頭を乗せて呻く。
同時に、紫と黄色の派手なでんきタイプのユニフォームから覗く白く細長い脚を投げ出した。
「あたしさ、たまにもうリーグ選手辞めちゃおうかなって思っちゃうんだよね、誰かさんのせいでいつも痛い目見るし」
「…悪かったな」
冗談よ、と言いながらなまえは頬杖を突いて、不貞腐れた態度でスマホロトムを弄り始めた。
今日の試合の録画を、これから見るという。
俺様も見てやるよ、となまえの座る椅子の背もたれに肘をついて、手元の小さな画面に共に視線を向けた。
ぐっと近付いた距離により、なまえがよく試合後に使っている制汗剤の香りが鼻を掠める。
いつからだっただろうか。
昔ならなんてことなかったのに、この距離感ですら俺様の心臓は煩くなりはじめる。
「バトルセンスも言うほどないし、だから万年マイナーだし」
けどさ、とふと真面目な顔をしたなまえの横顔が、暖かい色のキャンプのライトに照らされているせいか、少しだけ寂しそうに見えた。
「約束したんだよね随分と昔、一緒にあの舞台でバトルするんだって、ねぇ、キバナさま?」
「なまえ…」
だからまだ辞められないかなー、と困ったように笑ったなまえの顔が一瞬で目に焼き付いた。
それと同時に、急激に心拍数が上昇する。
スマホロトムで流れているなまえの試合の映像なんて、微塵も頭の中に入ってこなかった。
「…俺様、やっぱりお前のこと、好きだわ」
「やだなぁ、またメディアに叩かれちゃうよ」
公の場で言うなよー、となまえは声を出して笑った。
ああ、まただ、まだ本気にされてない。
いっそのこと、公の場で言ってやりたいくらいだ。
幾度となく載ってきた俺とおまえの関係性の記事の見出しが、事実だったら良いと何度思ったか、おまえは知ってるか。
大きな溜め息を吐き出すと、幸せ逃げるよ、となまえは優しく笑う。
やめろよ、人の気も知らないで、よく言えたもんだ。
長年拗らせた想いは、結局今日も届かず夜更けとともに暗闇に消えた。
Late At Night
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