今朝いつもの様にシングルトレインのホームへ行くと、ホームの掲示板の広告ポスターが貼り替えられていた。
少し前までは、確かヒウン大学のキャンパスの写真が大きく載った願書受付と大学宣伝のポスターだった筈だ。
それが、今は違う。
こういうものにはあまり詳しくない為、どういったものなのか詳しくは知らないが、とりあえず今月号のファッション雑誌の広告だということくらいは私にも分かった。
ポスターの真ん中には今年の流行りものなのであろう、可愛らしい春色のワンピースを来たなまえさまと彼女のチラチーノ、"春のお出かけスタイルはこれで決まり!"なんていうそれらしいキャッチフレーズが載っていたからだ。
そのなまえさまとは、ほんの数年前までよくこのギアステーションへ遊びに来てはシングルトレインをご利用なさり、私と手合わせしてもらった方だ。
ところが、この街のジムリーダーカミツレさまにモデルとして見込まれてからは、なまえさまは此処へは来られなくなった。
こんなに良い笑顔をなさっている。
きっと、今の仕事を目一杯楽しまれているに違いない。
そうと頭では分かっていても、やはり何処か私は寂しい様な気分になった。
彼女とはこうして紙面でしか、会うことが出来ない。
「…また、来てくださるとあの日仰っていたのに」
いつもの様に私とバトルをして、いつもの様になまえさまが勝利なさり、いつもの様にまた来ます、と笑顔で手を振ってトレインを降りた彼女を私は未だに忘れられていない。
未練がましい、と一言で言われてしまえば最もなのだがそうもいかない。
彼女が、なまえさまがいらっしゃらなくなってから私は初めて自分の気持ちに気付いた。
よくある恋愛小説やドラマではそんな主人公を馬鹿な男だと思っていたが、私も大概馬鹿な男だったらしい。
どうしてもっと早く気付けなかったのか、今ならその主人公の気持ちが痛い程分かる気がする。
春色ワンピースの彼女にそっと手を伸ばしたが、私の指先はポスターの少しざらついた感覚しか感じられない。
「ノボリ?」
「…クダリですか、どうしました?」
「今日のダブルトレインの運行…あ、此方もなまえちゃんのポスター、変わってる」
「ダブルトレインも、ですか」
私の目の前の広告を見て、クダリは業務連絡から話題を反らした。
そうか、ならばギアステーションのどの乗り場も恐らくこのポスターなのであろう。
なんという、仕打ちだ。
「そういえばなまえちゃん、来なくなった」
「…なまえさまはもう、バトルがお好きではなくなったのでしょうか」
「忙しいんじゃない?モデル…じゃなくて今日の運行、ノボリ聞いて」
「あぁ、そうでしたね」
クダリ、貴方はなんとも思っていないのですね。
つまり私だけが1人、あの日の彼女の言葉を忘れられずにいる。
もう一度伸ばしかけた指先は、なまえさまの数ミリ前でピタリと止まり触れることなく下へと落ちた。
伸ばした指先
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