※軽度の事後表現あり


窓の外がほんの少しだけ明るくなってきた頃だというのに、目が覚めてしまった。
枕元の時計を確認しようと少しだけ身体を起こせば、普段とは違う違和感があった。
いつもよりベッドが少しだけ窮屈に感じて、枕がいつもの倍あって、自分がいつも寝巻きにしているはずのものを着ていなくて。
ああそうだ、今日ここで寝ているのは、僕1人だけじゃないんだったと気付く。
隣には、まだ深い眠りについたままのもう1人。
2人で使う掛け布団からは、彼女の透き通るように白く綺麗な肌が少しだけ見えて、昨日の夜のことを一瞬で思い出した。
そして恥ずかしさの余り、小さく溜め息を吐く。
彼女に無理をさせてしまったんじゃないか。
もう、こんなじじいとは、なんて思われてないだろうか。
今更反省したってどうにもならないのに、今の時間を確認することも忘れて頭を抱えた。
隣で眠る彼女は、なまえ。
ワイルドエリアでうっかりカレーを焦がしていたら、笑いながら自分の作ったカレーを分けてくれたのが、出会いだった。
匂いに敏感な彼女のペロリームが、驚いて走って行くのを追いかけていたら僕に辿り着いた、と言われた時は、情けなくて苦笑いしかできなかった。
でも、お裾分けのカレーは今まで食べたことがないくらい美味しくて、僕も僕のポケモン達もあっという間に食べてしまったことを覚えている。
その美味しさが、単にお腹を空かしていたからなのか、彼女が作ってくれたものだったからなのかはその時はわからなかった。
けれど、思えばあの時から、僕はなまえのことが好きだったのかもしれない。
そんな少し昔のことを思い出しながら、隣で眠るなまえの顔にかかる髪をそっと耳に掛ける。



「…カブさん?」


「ごめんね、起こしてしまったかな」


「大丈夫…どうかした?」



こんなふうに君と過ごせるようになるなんて、あの日の僕は微塵も思っていなかった。
寝ぼけ眼で僕を見るなまえが、愛おしくて堪らない。
まだ整えられていないくしゃくしゃの前髪から覗く額に唇を落とすと、眠たそうな目は更に細くなる。



「初めてなまえと出会った日のことを思い出していたよ」


「カレー焦がしちゃったカブさん」


「うん、そう」



ふふ、とまだ半分寝ぼけたまま笑うなまえに釣られて僕も笑う。




「でも、僕はあの日カレーを焦がして良かったと思っているよ」


「なにそれ、変なの」


「だって、君とこうしていられるんだ」



やさいパックは無駄にしてしまったけれどなんてことないよ、と言えば、なまえはまた笑った。
でもやさいパックには謝った方がいいよ、彼女に言われたので、とうの昔に炭になって消えてなくなったそれに謝罪をした。



「カブさん、真面目ね」


「君に言われたら、そうするしかないよ」


「そんなカブさんが、好き」



僕の右手に、彼女は左手を重ねる。
その手にはめられた銀色の指輪は朝焼けの光を跳ね返し、鈍く光っていた。



Break Of Dawn


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