"今からウラウラビーチ行くから!"
交番の電話が鳴って受話器を取れば、それだけ聞こえて通話は切れた。
こんな電話を、この交番にしてくるヤツなんて、1人しかいない。
そして、この電話をしてきたということは、俺にどうしろと言っているのか、わかっている。
ああ、あと10分もしない内に来ちまう。
俺が遅れると、ねえちゃんは頬を膨らまして怒るんだ。
「クチナシさん遅い!」
「はいはい、悪かったな」
ほら、やっぱり怒られた。
頬を膨らまして、腕を胸の前で組んで、仁王立ちして。
相棒のマンタインも同じく抗議の声を上げるように、大きなヒレでバシャバシャと、波打ち際の海水を叩きつける。
顔の辺りまで飛んできたその水は、おじさんの黒い制服の裾を濡らす。
「あーもう、なんでこういうことするの、おまえさんは」
「遅れてくるからでしょ、ね、マンタイン?」
嬉しそうに鳴き声を上げるねえちゃんのマンタインを見ていると、もうこれ以上小言を言う気にはなれない。
思いっきり溜め息を吐き出すおじさんを他所に、マンタインの少しざらざらとした背中を撫でては楽しそうに戯れるなまえ。
溜め息は深くなるばかりだ。
大体、リザードンで直接マリエシティまで飛んで来れば良いものの、なんて思ってしまうが、こればっかりは仕方がない。
このビキニのねえちゃん、マンタインサーフの界隈ではかなり有名らしい。
ここ数年は、どの島でもトップクラスの成績を叩き出しているとか。
今でも、なまえがウラウラビーチに着けば人々は騒めき、憧憬の眼差しをなまえに向ける。
だからそんなねえちゃんの隣にいるのは、少しばかり、いやかなり気が重い。
賑やかなのは、好きじゃないっての。
それでも、電話1本で迎えに行ってしまうのは何故なのか、あまり考えたくないところだ。
「練習してたらお腹空いちゃったの、だからおじさんとご飯行きたいなって」
「それを人は集るっていうんだぜ、ねえちゃん」
「もー、細かいことはいいじゃない!」
なまえが両手で掬い上げた海水が、今度は思いっきり俺の制服を濡らす。
こんなべたべたにしやがって、俺がみずタイプになっちまう。
「なまえ、イタズラも程々にしねえと」
マンタインのようには、許してやらない。
怒ってやろうと水を掛けた犯人の方を向けば、空から容赦なく照り付ける太陽と、水面が煌めく美しい海に囲まれたなまえ。
こんなにもアローラの空と海が似合うヤツを、俺は見たことがない。
いたずらっ子のような笑みを浮かべて、嬉しそうにおじさんを見るなまえは、空高く上がるお天道さんなんかに負けないくらい、輝いて見えた。
眩し過ぎて、眩暈が起きそうだ。
ああ、太陽に愛されてるって、きっとこういうことを言うんだろうか、なんて柄にもないことを思ってしまう。
そんな頃にはもう、ねえちゃんを怒る気なんて微塵もなかった。
「…飯行くぞ」
「私ね、クチナシさんと一緒のやつ!」
はいはい、と適当に返事をして溜め息を吐き出す。
おじさん好き!と喜びながら、俺の行く先を足取り軽く歩いていくねえちゃん。
振り返って笑顔を見せるなまえに、今日も俺は身も心も振り回される羽目になるらしい。
太陽に愛された
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