今日は朝から分厚い灰色の雲が、空一面に広がっていた。
昨日からしとしとと降り続く雨は、一向に止む気配がない。
じめじめとした、鬱陶しい天気だ。
そんな日であろうと、ジムには行かなければならないのがジムリーダー。
ちゃんと傘を開いて家を出たものの、地面で跳ねる雨粒のせいでズボンの裾はもう湿っていた。
そろそろ目的地に着くころ、傘も差さずにソーラーパネルを兼ねた歩道に佇む人影が見える。
こんな雨の中、何をやっているんだか。
他人事のようにそう思いながら、その影に近付いて行く。
だが、それが誰なのかわかった瞬間、オレの歩みは勝手に早まっていた。



「なまえ、おまえ…」


「…デンジ?」



振り向いたそいつに、持っていた傘を傾ける。
いつからこんなところにいたのかわからないくらい、全身ぐしゃぐしゃに濡れていた。
声を枯らして、目を真っ赤に腫らして。
なにしてるんだ、という前にこいつがこんな顔をしてる理由は察しがついた。
けれどオレは、その理由をどうしてもなまえの口から聞きたくて。
意地が悪いとわかってはいたが、どうしたと問い掛けた。



「私ね、振られちゃったよ」


「…そうか」



知ってる。
昨日、告白するって言ってたからな。
オレと腐れ縁の、オーバに。



「オーバ、なんて?」


「それは…」


「いや、やっぱりいい」



言いにくそうにぐっと言葉を詰まらせたなまえを見て、自分の投げ掛けた問いを取り消した。
これ以上、悲しみで歪むこいつの顔は見たくなかったから。
なまえがオレ達と知り合ってから、いくらか経って、なまえから相談があると言われたのはまだ1年くらい前の話。
正直、なまえからオーバが好きだと言われた時はショックを受けた。
だって、オレはなまえが好きだったから。
けれど、オレは自分なりになまえを応援してきたつもりだ。
オーバの好みのタイプとか服装とか店とか、オレの知っている腐れ縁のアイツの情報は何でも教えた。
本心ではそんなの1ミリも教えたくなかったし、なまえが辛い顔をする度もうやめとけよ、って言葉が喉元まで出かかっていた。
それでもオレは、なまえが目一杯オシャレして出掛ける時も、嬉しそうにアイツの話をする時も、何でもないフリをして頼れる男友達でいることを貫いた。
それももう、今日で終わらせてしまっても良いのだろうか。



「なぁ、オレだったら」



"おまえを泣かせたりなんか絶対にしない"


言いかけて、今日も言葉の続きを飲み込んだ。
不思議そうに首を傾げたなまえの瞳には、まだオレは映っていなかったから。
きっと、今それを伝えたって、こいつを困らせるだけだ。
なんでもない、と言ってなまえの冷え切った身体を引き寄せるのが精一杯だった。
腕の中で小さく震えるなまえは、寒さのせいでそうなっているのか、また溢れ出てきた涙のせいなのかはわからない。



「…気が済むまで、いてやるから」



急に強くなりだした雨音に、なまえの声は聞こえなくなった。
そんな空模様が、なんだかこいつの心を映し出しているかのように思えた。
きっと、誰かが天気を書き換えるまで、この雨が上がることはないんだろう。
そう、まるで、あめふらしのように。



あめふらし


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