※絵馬に書かれた続き


「なーにニヤニヤしちゃってんの?相棒」



昼休みが終わろうとする頃、陽介に声をかけられた。
そんな顔をしていたか。
口元に手を当ててみたが、自分ではよくわからなかった。



「なんか良いことでもあったとか?」


「いや、特には」



言いかけて、はっと昨日のことを思い出す。
良いこと、あったかもしれない。
うっかり呟くとマジで?と、食い気味に何があったのか陽介に聞かれた。
これ以上言うのは、なんだか面倒なことになりそうだ。
それに、今はあまり言いたくない。
ちらと、陽介の後ろに見えた女の子に視線を向ける。
彼女がいるところで、こんな話はしたくない。
それなのに。



「もしかして…恋しちゃった!?」



陽介が小声の割には大きな声でそんなこと言うから、一瞬身体が固まってしまう。
そんな状態でなんとか誤魔化そうとしても、相手にとっては肯定の意味にしか捉えられないようで、そっかそっか、と陽介は楽しそうな表情をしていた。
だが、チャイムと共に教室に入ってきた先生に、陽介は慌てて自分の席に戻っていく。
良いタイミングで授業が始まってくれて、この時ばかりは助かったと思った。
授業で使う教科書を出そうとして鞄を開くと、神社の絵馬が2枚出てくる。
1枚は、昨日拾ったもの。
もう1枚は、まっさらで何も書かれていないもの。
そういえば、返事をまだ書いてなかった。
教科書の下にこっそりと隠して、何て書こうかと悩んでいると、さっきのやり取りがふと頭に浮かんだ。
それくらい、俺は昨日の出来事に浮かれているということなんだろう。










その日の放課後神社に行くと、呼んでもないのにキツネが俺の元にやってきた。
確かに敷地内に人はいなかったけれど、どういうことだろう。
不思議に思っていると、キツネは本堂の裏へさっさと歩いていってしまう。
付いて来いとでも言っているような気がして後を追うと、聞き覚えのある女の子の声がした。



「あーもう、どこで落としちゃったんだろ…」



その子は地面に鞄を置いて、何かを探しているかのようにうろうろと本堂の裏を歩いていた。
彼女の探し物に心当たりがあって、どうにも気まずい。
本堂の影に隠れようとすると、キツネはそれを阻むように俺の足を頭でぐいぐいと押してくる。
まるで、行け、と言っているかのようだ。
鞄から絵馬を1枚取り出すと、怖い物なしの勇気で、彼女の方へと向かった。



「探してるもの、これ?」


「え…な、鳴上くん!?なんで、それ!」



彼女は俺の手元の絵馬に気付くと、ばっと奪うように取り返した。
その絵馬を胸元でぐっと握り締めると、顔を真っ赤にして目を逸らす。



「…もしかして、読んだ?」


「ごめん、読んだ」



はあ、と溜め息を吐き出すと、彼女はその場に座り込んでしまった。
こんなことある?と弱々しく呟く彼女に、もう1度ごめんと言った。



「だから、それ読んで」


「だってこれ…」



自分で書いたの恥ずかしいよ、と少し嫌そうな顔をして俺を見上げた彼女に、いいから裏を見て、と言う。
彼女の手元のそれは、自分の字で書いた歌の絵馬。


"しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで"


彼女は読み終えると、驚いたような顔でこちらを見たが、すぐに顔を曇らせた。



「鳴上くんの、恋が、叶うといいね…」


「?もう叶ったよ」


「え…そ、そう…」



よかったね、と悲しい表情で口を開いた彼女の横に、同じように座り込んでぴったりと身体を寄せる。
俺の行動に戸惑う彼女に、昨日ここで拾ったもう1枚の絵馬を見せた。



「みょうじさんが好きだから、叶った」


「え…え!?」


「みょうじさんは?」



叶った?と聞くと、彼女は真っ赤な顔で小さく頷く。
こうして晴れて願いが叶った俺達は、本堂の横にある絵馬掛所に2枚の絵馬を重ねて掛けた。
もちろん、その日は2人でお賽銭を多めに入れて帰ることにした。



「そういえば、まだちゃんと返事聞いてない」


「ちゃんと?…ええ、言わなきゃダメ?」



頬を染めて溜め息を吐く彼女に、ダメと言うと、こちらをちらと見てまた溜め息を吐いた。



「…好き、鳴上くんのこと」



こっちを見てはくれなかったけれど、耳まで赤く染まった彼女が小さく呟いたその言葉は、しっかりと俺の耳に届いた。
空いた彼女の手に自分の指を絡めて握り締めると、彼女は恥ずかしそうに笑って握り返してくれる。
ふと後ろを振り返ると、本堂の上からキツネが俺達を見下ろしていた。
なるほど、願いが叶う神社というのは、どうやら本当のようだ。



絵馬で返した恋歌


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