※女装番長


女装コンテストに、出場することになってしまった。
それに参加すること自体は、特に何も思っていない。
けれど1つだけ、気が進まない理由がある。



「ぶっ…あはははっ!」


「……、」


「女装コンテストて!鳴上くん実はそういうの乗り気なタイプ?」


「…違う、里中達が勝手に」



誰だって、好きな子に女装姿を見られたいとは思わない。
しかし目の前にいる女の子は、俺が女装コンテストに出ることを知ってしまったし、それを知って腹を抱えて笑う。
笑い過ぎて1人で咽せるくらいだ。
てかうちの教師陣もこんな企画なんで毎年許してんの、と言いながら目尻に涙を溜めてこちらを見る。
それはわかる、ごもっともな意見だ。



「まあ、せっかく出るならいっそとびきり可愛くしてもらえば?」


「そりゃあ中途半端にする気はないけど」


「っんふふ…鳴上くんのそういうとこ、良いよねホント」



未だ俺の前で楽しそうに笑い続ける彼女は、みょうじさん。
クラスメイトで明るく気さくな彼女は、八高で男女問わず人気者。
俺も、その笑顔に魅入った1人だ。
彼女の魅力に気付いてしまってから好きになるまでは、あっという間だった気がする。
ひとしきり笑うとみょうじさんは、女装楽しみにしてるね、と嬉しそうに帰っていった。
彼女と何気ないやりとりができたのは嬉しかったが、今日は話の内容が内容だ。
彼女の背中を見送りながら、さっきの会話を思い返す。
やはり俺の口からは、深い溜め息しか出てこなかった。










文化祭当日。
とうとう、その日はやってきた。
女装コンテスト参加に向けた準備は整い、後はその舞台に立つだけ。
空き教室で1人慣れない格好をして、陽介と完二の準備を待っている時だった。
ガラリと開いた扉の方を見れば、今はあまり会いたくない人。



「えー!?うそ、可愛いじゃん!」


「…っ!?」



彼女はそう言って俺に駆け寄ってきたかと思えば、未だかつてないほど顔を近づけてくる。
あまりの近さに驚いて、仰け反る間もなくその場で固まってしまった。
化粧を施された俺の顔をじっと見て、なんか私負けてない?と怪訝そうな顔で呟いた彼女に、それはないと強く否定をする。
そうは言えても、君の方がずっと可愛いと言う勇気は、冒険者級くらいあったってできやしない。



「元の顔が良いもんね、そりゃ可愛いか」


「そんなことは、ない」


「照れちゃって、可愛いんだから」



可愛いなんて言われ慣れてないからか、自分でも顔が赤くなっているのがわかるくらい。
どうしたらいいか戸惑っていると、鳴上くん、とみょうじさんに呼ばれた。
少し前屈みになると、俺よりも一回り小さい彼女から手が伸びてきて、少し温度の上がった俺の頬にそっと触れた。
今日の彼女は、何だかいつも以上に大胆だ。
俺がこんな格好だから、女友達みたいだと思って接しているのだろうか。
いずれにせよ、この状況は心臓に良くない。



「ホントに可愛いよ、鳴上くん」


「それはもう良いって…」


「私が男だったら、好きになっちゃいそう」



彼女は、頬を少しだけ染めて悪戯っぽく笑った。
俺の頬に添えられたみょうじさんの手に、思わず自分の手を重ねる。
自分の今してる格好なんて、すっかり忘れてしまうほど、彼女の言葉の一部が頭に響いて離れない。
本当に、俺のことを?



「…好きになってくれるの?」


「え!?あ、えっと…」



重ねた手に期待を込めて、そっと握りしめた。
俺が彼女の瞳をじっと覗き込むと、2人の視線がぶつかり合う。



「好き、だよ」


「え…」


「い、言っとくけど!今の鳴上くんのこと、だから…!」



勘違いはしないように、と彼女はぼそぼそと小さな声で付け足す。
その時のみょうじさんは、俺に負けないくらい真っ赤な顔で目を逸らして、そのまま俺達しかいない教室から慌ただしく出ていってしまった。
煩いほど鳴っていたはずの心臓は急に止まって、痛いほど締め付けられる。



「あんなの、勘違いするだろ…」



両手で口元を隠すと、熱があるんじゃないかと思うくらい顔が熱かった。
俺はこれからどんな顔をして、君の見ているステージに立てば良いんだろう。
君に可愛いと思われたい?
カッコいいと思っててほしい?
どっちが正解なのかも、正直わからない。
落ち着こうとゆっくり息を吸って吐いても、この胸の奥の苦しさが収まる気配はなかった。



恋する乙女


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