「…これで、いいのか?」
熱々に熱したオーブンの中に並ぶ生地を見つめながら、ぽつりと呟く。
買ってきた本通りに作ってはみたが、正直なところ不安しかない。
もちろん料理は得意な方だ。
けれどお菓子はというと、ほとんど作ったことがない。
それでもやろうと思ったのは、まだクラスメイトのみょうじさんの一言。
"私、シュークリーム好きなんだ"
昼休みによくデザートとして食べているから、気になって聞いたら彼女はそう言った。
嬉しそうに食べながら笑う彼女の顔を思い出す。
可愛かった。
あの時の君の顔がもう一度見たくて、ほぼやったことのないお菓子作りをやっているなんて、我ながらその行動力にびっくりしている。
陽介が知ったら、どんな顔をされるだろうか。
まあ、彼女が喜んでくれるならなんだっていい。
「そうだ、ホイップクリームも作らないとな」
クリームは、ホイップとカスタードが両方入ったやつが1番好きって言っていたから。
生クリームに、砂糖をティースプーン一杯加えて泡立てる。
ふと君の笑顔が浮かぶと、自然と笑みが溢れて、胸がぐっと締め付けられた。
「はー、ごちそうさまー」
翌日、俺はみょうじさんを昼ご飯に誘って屋上で一緒に弁当を食べた。
手を合わせて弁当を片付ける彼女を横目で確認して、無地の白い箱を取り出す。
上手く出来てる、とは思う。
ちゃんと味見もしたし、見た目も売り物と比べて見劣りしていないはず。
それに菜々子にも叔父さんにも食べてもらって、お墨付きはもらっている。
それでもやっぱり不安は、ある。
いや、そもそも付き合ってもないのに手作りお菓子って、どうなんだろうか。
あれこれ考え始めたら、余計に不安になってきた。
でももう持ってきてしまったし、今更これを陽介と2人で食べるわけにもいかない。
「みょうじさん、これ食後のデザート」
「え!?いいの?」
少しぎこちなく頷いて、箱を渡す。
渡した時にみょうじさんと指先が触れ合っただけで、ドキリとした。
普段ならそんなの、全然気にしないのにな。
そんなどうでも良いことを考えている俺の隣で、開けていい?と首を傾げて笑う君がすでに可愛かった。
箱の中身が自分の好きなものだってわかったら、どんな表情をしてくれるんだろう。
「シュークリーム!」
「うん、好きって言ってたから」
「ホイップとカスタードのやつ?」
「もちろん」
唇に指を当てて美味しそう、と目を輝かせる彼女は、なんかもう可愛いとかそういうレベルじゃなかった。
小さな口を目いっぱい開いて、シュークリームにかぶり付く彼女を眺めていれば、俺の心も満たされる。
「待って、これ何処のやつ?」
「え、いや…」
だが、一口食べた彼女はその手を止めた。
やっぱり、口に合わなかっただろうか。
それなら尚更、手作りだなんて言いづらい。
俺が口ごもっていると、みょうじさんは他の人に言いふらしたりしないから、とシュークリーム片手に小声で尋ねてくる。
きっと意味は違うけれど、その言葉に少しだけ安心して口を開いた。
「…俺が作った」
「え…え?鳴上くんが?」
ごめん、という俺の言葉は、彼女の驚いた声に全てかき消された。
「すごいよ鳴上くん!めちゃくちゃ美味しい!」
「それなら良かった」
この上ない幸せとでもいうような顔で、2個目のシュークリームを口に運ぶみょうじさん。
そんな彼女を見ているだけで、俺の方が幸せになれそうだ。
こんなに喜んでくれるのなら、昨日の晩ご飯がほぼシュークリームになった甲斐はあった。
なんて、昨日の苦行を振り返りながら彼女が頬張る姿を見ていると、また彼女が食べる手を止める。
「鳴上くん、私鳴上くんのシュークリーム毎日食べたい」
真剣な顔でこちらを見つめるみょうじさん。
口の端に混ざり合った2種類のクリームを付けて何を言うかと思えば、どこかで聞けそうなプロポーズみたいな台詞。
まさか好きな女の子から、そんなことを言われるなんて思ってもなくて驚いた。
多分彼女は、そんなつもりで言ったわけじゃなさそうだけれど。
それでも嬉しくて、彼女との距離を少しだけ詰める。
「いいよ」
人差し指で彼女の唇を端から撫でるようにして、クリームを掬った。
それを舐めたら、昨日味見した時のクリームとは比べ物にならないくらい、甘い。
「毎日作ってあげる」
「ホント!?あ、でもタダってわけにもいかないし…」
1個いくら?なんて真面目に聞いてくるから、思わず笑ってしまった。
そんなの、気にしなくったっていいのに。
君が美味しそうに食べてくれるなら、シュークリームくらいいくらだって作れる。
でも1つだけ条件を付けても良いのならば、値段なんかじゃなくて。
「じゃあ俺と一緒に食べてくれるなら」
「わかった、任せて!」
ホイップとカスタードのシュークリームが大好きな君が、俺の隣で笑っていてくれることだろうか。
ホイップとカスタード
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