※貞操観念低めの若カブ、注意


あの頃は毎晩、隣で寝ている女の人が違った気がする。
ホウエン地方から招かれた、期待のトップジムリーダー。
その肩書きだけで、老若男女いくらでも人が寄ってきたし、僕が誘えば誰もが首を縦に振った。
週刊誌にすっぱ抜かれようとも、メジャークラスで上位の地位を守り続けていたから、誰も何も言わなかった。
そんな日々が嫌いじゃなかったし、その時はこれでいいと思っていた。



「え…」


「だから、結構です」



あの日、行きつけのお店で出会った彼女に、初めて誘いを断られた時は衝撃が走った。
だって、今までこんなこと、なかったから。
その日のことはショックのあまり、ほとんどのことを覚えていないけれど、頼んだお酒を半分も飲まずに家に帰ったような気がする。
それから何故か、あの時の名前も知らない彼女が忘れられなくなって、必死に探した。
お店のマスターに聞いても、初めてのお客さんだから知らないと言われたし、彼女がどこで何をしている人かもわからなかった。
探しようがなかったけれど、それでもどうしてももう一度会いたくて、ガラル中を探し回った。



「…なまえです」


「え?」


「名前、知りたがってるって、聞きました」



次に会えたのは、初めて出会った時と同じ場所。
その時も彼女は、私の名前なんて知ってどうするんです、と笑いもしないで僕に冷たい視線を向けた。
その横顔に、どうしても僕は君と共に過ごしたいと思ったけれど、彼女は絶対に首を縦に振ることはなかった。
断る理由を聞いて、自分の今までの行動を心底後悔することになる。



「貴方のような人は、好みじゃありません」


「えーっと…見た目が、とか、かな?」


「まさか、女にだらしない人は嫌いです」



知らないとでも、と決定的な言葉を突きつけられる。
そして彼女の座っていた席には、口を付けてもいない僕が奢ったお酒と、そのお酒のお金だけがぽつんと残されていた。
目眩がして、目の前が真っ白になって、今にも椅子から転げ落ちそうだった。
まだそれほど長く生きてはいない人生だけど、こんなにあっさりと振られたことはない。
そのことに躍起になったのか、とにかく彼女に振り向いて欲しくて、思い付いたことは何でもした。
手段は選ばない、必死過ぎて、笑えるくらいに。
そうしてる間に、きっと僕は、君のことを本気で好きになったんだと思う。
今までの生活をまるで嘘みたいに変えて、彼女の隣に胸を張って立てる誠実な人間になろうとした。



「貴方のことは好きにならないです」


「どうして、こんなにも君を愛してるのに?」



それでも僕は、君に見向きもされなかった。
もはや、君は僕のことが心底嫌いなのではないかと、思うくらい。



「貴方の愛してるは、上辺だけ」


「そんなこと…」


「そんなのいらないです」



もうこんなことはやめてくれと言って、彼女は僕の前から姿を消した。
それから君に会うことは、2度となかった。
こんな状況になってから、僕はふと気付く。
僕は彼女の、何を好きになって、愛してると言っていたんだろう。
顔なのか、性格なのか、もっと別の何かなのか。
どれを思い浮かべても、これだと思うものがなかった。
けれど、彼女のことは、本当に好きだった。
嘘じゃないんだって、何回そう言ったって、最後まで君に届くことはなかった。
君が言った通り、上辺だけの付き合いしかしてこなかった僕には、君が本当に欲しいものの1つすらわからない。
だって僕は、君のいう愛なんて、知らなかったから。



愛は知らない


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