「みんなには俺から召集かけとっからさ!また後でな!」
陽介の急な提案で、今日は海に行くことになった。
急過ぎて思わず今度にしよう、と言ってしまったくらい。
しかし、電話越しの陽介の痛切な願いがひしひしと伝わり、その後結局わかったと返事をした。
窓の外を見ればよく晴れていて、絶好の行楽日和。
こんな日に海に行くのも、悪くないとだんだん思えてきた。
ふと、みんなに召集をかけると言った陽介の言葉に、あの子はいるだろうかと疑問が浮かぶ。
いつものメンバーは勿論だが、もしも彼女もいてくれたらと思ったら、次の瞬間には言葉が口から出ていた。
「待ってくれ陽介」
もう1人声をかけてくれないかとその名前を告げると、電話口の陽介は少しの沈黙の後、あーなるほど?と含みのある返事をした。
陽介の顔こそ見えないが、ニヤニヤと笑っている姿は容易に目に浮かんだ。
周りをよく見ている陽介のことだ。
きっとこのことには、とっくに気付いていたんだろう。
だからなのか陽介は、頑張れよ相棒!なんて言って電話を切るから、なんだか変な緊張をしてきてしまった。
「なんか…キンチョーしねえ?」
海だぞ?水着だぞ?生りせちーだぞ!?と興奮する陽介に、俺は別の意味で、いや別の人のことでとっくに緊張していた。
自分から言い出したくせにいざとなると、みんなとじゃなくて2人の方が良かっただろうかとか、いやいきなり海に誘うのもどうなんだとか、いろいろ考えてしまう。
いつの間にか何も返事をしなくなった俺に気付いた陽介は、いやお前は違うか、と顔を覗き込んでニヤリと笑った。
「うおっ!」
陽介の声に振り返ると、里中、天城、りせ。
俺が誘った彼女は、その中にはいなかった。
ついきょろきょろと辺りを見渡した俺に、陽介がみょうじなら少し遅れるってよ、と今更耳元でぼそっと呟いた。
そういうのは先に言ってくれ、と思いながら女性陣の水着姿にはしゃぐ陽介とクマを横目で眺める。
陽介じゃないけど、彼女のいつもと違う姿が見れると期待していた分、口から吐き出された溜め息はまあまあ大きかった。
それから完二が合流し、陽介やりせが騒いでいるのをそっちのけで、里中が俺と天城に早く海へ行こうと急かす。
「俺はもう少し後から行くよ」
「あ、なまえちゃんまだだもんね」
先に行くね、と波打ち際へ駆け出していった里中と天城に小さく手を振った。
リーダーは優しいなあ、なんて聞こえてきた里中の言葉に、本当はそんなんじゃない、と1人首を横に振る。
1番最初に、彼女の夏の装いを見たいから。
陽介やクマや完二と彼女が、一緒にいるところなんて見たくないから。
少しでも多く、彼女の側にいたいから。
俺が彼女を待つ理由なんて、そんなもの。
下心しかない自分に呆れて溜め息混じりに振り返ると、そこには待ち人のみょうじが立っていた。
みょうじはテレビに入ることはないが、特捜部を影から支えてくれている大切なメンバーの1人。
彼女の明るさと人懐っこさが創る幅広い人脈を生かして、捜査の情報収集はもちろん、必要とあらば物資の調達にも協力してくれている俺のクラスメイトだ。
みょうじに惹かれていると自分で気付いた時には、もう既に彼女のことで頭がいっぱいになるくらい、俺は彼女に恋をしていた。
「鳴上くん遅くなってごめんね、急だったから準備に時間かかっちゃって…」
「いや、良いんだ…急に誘ったのは俺だから」
そうなの?と不思議そうに首を傾げるみょうじに、自分から誘ったことをわざわざ言ってしまったと気付いてとっさに口元を隠す。
今ならさっきの陽介とクマのはしゃぎっぷりも、理解できるような気がする。
少し前に悩んでいたことなんて、もうすっかり忘れた。
だって里中とも天城とも、りせとも違う。
彼女にとびきり似合う水着姿は、空から照りつける太陽よりもずっと眩しい。
「その…可愛い、と思う」
「え?あ、ありがとう…」
今の俺には、それが精一杯の言葉だった。
それに驚いたような顔をしたあと、頬を赤く染めて照れたように笑った彼女を目にしたら、余計に目がチカチカする。
これは、空に浮かぶ太陽のせいでも、海で揺れる波が反射した光のせいでもない。
「いこう、みょうじ」
手を差し出して、彼女を七里海岸の波打ち際へと誘う。
真っ直ぐ見つめたみょうじの瞳の中には、俺しかいなかった。
このまま、俺だけが映っていればいいのに。
この夏だけでも、今日だけでも良いから。
君が、俺に恋をしてくれたら。
そう願って、伸ばされたみょうじの右手を取った。
この夏の恋はどうか俺と
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