"以上をもちまして、納涼花火大会の演目は全て終了となります"
八十稲羽の夜空を彩る花火大会の終わりが、案内放送によって告げられた。
これが終わると、いよいよ夏が終わる。
私は今年も、友達とこの納涼花火大会に来ていた。
お互いに、今年も一緒に見ちゃったね、と笑った。
別にそれでも楽しいけれど、やっぱりお年頃の私達は好きな人と見に行きたいよね、なんて毎年言っては結局こうして一緒に来ていた。
もう来年も一緒に来ようよ、と半ば諦めたように友達は言う。
一緒に見に行きたい人いないしね、と私も苦笑いをした。
本当は、今年は、違った。
一緒に行けたら良いと、思えるような人に出会った。
でもその人は、今年うちの高校にぱっと現れて、あっという間にいろんな友達に囲まれていた。
その中には、私よりもずっと可愛い女の子達がいて。
クラスが同じとはいえ、顔を合わせれば少し話すくらいの仲だし、どうせ無理だとわかってる。
だから、私からは何も言わないし、しない。
今更いろいろ考えたって仕方ないのもわかってるのに、友達と別れて1人になると急に消極的な気持ちでいっぱいになってしまう。
溜め息を吐いても何ひとつ返ってこないような静まり返った夜道を、私は1人寂しく歩いていた。
「…みょうじさん?」
「あれ、鳴上くん?」
声をかけられて振り返れば、噂の男子高生。
今日の最後に、彼に会うとは思ってなかった。
ああ、始まる前に会えていれば良かったかも、なんて思ったけれど、今は会えただけで十分だった。
「みょうじさんは花火大会の帰り?」
「そうだよ、毎年行ってるんだ」
鳴上くんも花火大会の帰りなの?とは、聞けなかった。
だって、この日こんな時間に外を歩いているんだから、きっとそうに決まっている。
誰かと一緒に見ていたんだって思うと、いくら諦めてると言ってもやっぱり怖くて聞けなくて、俯いた。
そっか、と彼の呟く声が聞こえた。
「浴衣、いつも着ていくの?」
「うん、まあこういう時しか着ることないし…あ、なんか変だった?」
「そんなことない、すごく…」
鳴上くんは何かを言おうとして、結局何も言わなかった。
不思議に思って彼を見上げると、口元に手を当ててそっぽを向いていた。
どうかしたの、と聞いても、彼はなんでもないと黙り込んだままだった。
その間も、私が歩くたび下駄がカラカラと音を立てて鳴り響く。
「…誰と、行ったの?」
「花火?友達だよ、3組の…」
口を開いたと思えば、妙な質問をする彼。
それは鳴上くんが気にするようなことなのか、と思いながら話していると、急に隣から鳴上くんの姿がなくなった。
振り返ると、彼は立ち尽くしてこちらを見ている。
「え?それがどうかした?」
「あ、いや、良かったって思って」
「…なにが?」
話が見えなくて、私も立ち止まった。
田舎町じゃ街灯も少なくて、彼の顔は良く見えないけれど、今日の鳴上くんはなんだか変だ。
「その、彼氏と行ったのかと」
「まさか!」
私のその答えを聞いた彼が、少しだけ安心した表情をしたような気がした。
いや、多分気のせい。
都合の良いように見えてしまった自分がなんだか恥ずかしくて、本当はそうだったら良いんだけどね、と適当に誤魔化して笑った。
すると、鳴上くんは急に私の手を取って、じゃあ、と私をまっすぐ見る。
予想もしていなかった出来事に、持っていた巾着が2人の間に落ちた。
「来年は、俺と行ってくれる?」
「え…?別に、いいけど…」
なんで?と聞くと、彼はまた黙ってしまう。
一緒に行けるのなら願ってもない事だし、普通に嬉しいけれど。
でも、何故、今の話の流れでそれを言うんだろう。
うっかりしてたら勘違いしそう、なんてぼんやり考えながら鳴上くんに視線を向けると、暗くてもわかるくらい彼の顔は赤く染まっていた。
「必ず来るから、考えておいてほしい」
じゃあおやすみ、とだけ言って鳴上くんは足早に帰ってしまった。
何も見えなくなった夜道を見つめても、彼の気持ちは全然わからない。
けれど今夜、私はもう一度だけ、彼のことを好きになってしまった。
あんなの、やっぱり勘違いするじゃん。
半ば諦めていたこの気持ちをどうしてくれるんだろうと思いながら、1人暗い夜道で立ち尽くしていた。
今夜、私は恋をする
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