定期試験も近付く1週間前、俺たちは図書室にいた。
気になるあの子は、鳴上、天城に次ぐ成績上位者で、定期試験が近付くと放課後はこうして2人で図書室へ勉強しに来ている。
勿論、勉強がメインだ。
定期試験を口実にみょうじと仲良くなろうなんてそんな事は、これっぽっちも思ってない。
やっぱり言い過ぎた、これっぽっちは思ってる。
「みょうじここは?なんでこの式こうなんの?」
「えっと、それはまずこういう形にしないとこれが代入出来なくて…」
みょうじの得意科目は、意外にも数学。
別に俺も補講を受けなきゃいけないほどヤバい点数しか取れない訳じゃないけど、めちゃくちゃ良い点数が取れる訳でもない、所謂平均点そこそこってヤツ。
でも勉強しなきゃそこそこが取れないから、定期試験前はみょうじに頼るわけで。
それにみょうじの教え方はすげーわかりやすくて、正直中山の授業より良い。
今も、何やらノートとプリントのようなメモを見ながら一生懸命俺の質問に答えてくれている。
「…で、ここでこれが消えるからこの形になるって訳」
「あー、なるほどね!やっぱお前中山より分かりやすいわ」
褒めても何もあげないよ、と少し照れながら笑うみょうじが好きで、この笑顔が見れるだけで俄然やる気が出てくる。
問題の続きはもう自分でも解けそうになって来たから、黙々と数式と戦っていると、視界の片隅に見えたみょうじが控え目に欠伸をしたのが見えた。
そういえば、さっきからみょうじは見てるだけで疲れるよな。
眠くなってきたよな、と申し訳なく笑ったらみょうじは、昨日ちょっと寝るの遅かっただけだから、と口元を隠しながら俺から視線を逸らした。
ホント、こういう仕草可愛いんだよなー、じゃなかった。
せめてこの問題を俺が早く解き終わらなければ休憩も出来ない。
「あー、終わった終わった!もうこれテスト出たら完璧だわ」
「あ、言ったなー、絶対だかんね」
ふふ、と笑うみょうじに釣られて俺も笑うと、この和やかな雰囲気を壊すように俺のポケットの中の携帯がやたら長く震え出す。
誰だよこんな良い時に、とやや不貞腐れながら画面を見ればジュネスのチーフで。
多分こんだけ長いコールしてるって事は、出ない訳にはいかないんだろう。
悪いバイトからの電話出るわ、と言って席を立つと、みょうじは自分のノートを開きながら行ってらっしゃい、と手を振って見送ってくれた。
結局電話は今日急遽バイト入ってくれだの、明日と明後日のシフトがどうとか、割と急ぎでもない内容。
ていうか、今週は定期試験だから入らねえって言ったのに、聞いてねーのかよ。
それに明日もみょうじと勉強するって約束してんだよ、バイトなんか入るもんか。
「悪い遅くなった、聞いてくれよバイトのチーフが…」
図書室に戻りさっきの電話の内容を愚痴ろうと、みょうじの隣の定位置に座ろうとすると、隣の女の子は気持ちよさそうに机の上で眠っていた。
やっぱり眠いの我慢して俺の勉強に付き合ってくれてたんじゃんか。
余程我慢していたのか、ノートは開きっぱなしになったまま、手書きのメモ用紙も机から落ちてみょうじの周りに散らばったままだった。
申し訳ない気持ちと同時に、そんなみょうじの優しさを嬉しく思いつつ、床の紙を拾う。
見るつもり何て全くなかったが、拾った紙に書かれた文字がふと目に留まり思わずじっくり見てしまった。
昨日苦手なんだよな、なんて呟いた定理の横にはピンク色のペンで、"花村くんの苦手なとこ!"という特記事項が書かれている。
その下には定理の説明の為に書いたと思われるイラストや、式の説明が延々と書かれていた。
次の紙も、その次に拾った紙も、全部今日教えてくれた公式や問題の解説。
最後に拾った紙の端には、"花村くんと勉強する日"という予定がハートで囲われている。
マジかよ、これってみょうじもこの時間を楽しみにしてくれてたって勘違いしちゃって良いわけ?
何も気付かずまだ隣で眠る女の子に自分の制服の上着をそっと掛けて、ほんのり色付く頬に触れたか触れないかの口付けをする。
今俺に出来ることはこれが限界。
顔が熱くなり過ぎて頭がぼんやりしてきたのは、勉強し過ぎた知恵熱に違いない。
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