すっかりと外は暗くなりギアステーションの入口を閉めようとしたが、鍵を何処かに置いてきてしまった事に気付く。
普段はライモンシティの駅長室に掛けてあるはずだが今日ばかりはない。
今は何も掛かっていない空の鍵掛けを眺めて今朝入口を開けた時の記憶を探る。
そうだ、私は朝スーパーシングルトレインを動かしてからナマエさまに会った。
スーパーシングルトレインの乗り場の階段を小走りに降り、ホームの立入禁止の書かれた小さな柵を開け、線路脇へと降りる。
少し暗い道を歩き今朝立ち寄った部屋に入ると探していた鍵は壁にきちんと掛けられていた。
鍵をポケットに仕舞い急いで部屋を後にしようとすると、人の微かな声が聞こえドアノブに手を掛けたまま動作を止めた。
耳を澄ませば良く聞き慣れた声。
「あぁもう、何で今電池切れるかなぁ」
部屋から出ると線路に金属の工具が落ちた音だけは良く響いた。
間違いなくナマエさまの声。
この声を間違える事なんてない。
今日はスーパーシングルトレインの線路点検日。
きっと点検中に手持ちの懐中電灯の電池を切らしたに違いない。
今すぐ電池を届けて差し上げようともう一度部屋に戻ろうとした、そんな時に限って私の頭にまたあのクダリの言葉が蘇る。
こんな事、今思い出す事ではないのに。
徐々に熱くなる顔と高まる心を抑えようとぐっとドアノブを握る手に力を入れたが、そんな事で収まるものではなかった。
私がそんな下らない葛藤をしている間にナマエさまはご自分で懐中電灯の代わりとなるものを見つけ出したようで、彼女の声は次第に小さくなっていく。
「…お気を付けてくださいまし、ナマエさま」
自分の心情に負けて彼女の助けとなれなかった事の謝罪の気持ちも込めて遠ざかる声の方向に向かって小さく呟く。
こんな気持ちになるのはナマエさまが初めてだからどうしたら良いのか、自分でも模索状態。
そんな事になるぐらいだったら、好意なんてものは持たない方が良かったのだろうか。
気分はあまり晴れないまま、私はスーパーシングルトレインのホームを後にした。
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