のろのろとホームに入って来た始発へゆっくりと近付くと、身を乗り出す彼女が此方に気付き乗務員席から降りてきた。
まだ眠たそうに目を擦りながらおはようございます、と声を掛けてくださる。
昨日の事があって私的にはかなり気まずい気がしていたがナマエさまは何も気にしていないご様子。
それもそのはず、それは私1人で悩んで1人で後悔していた実に下らない事だからだ。
だが目を擦っていた手を下に降ろしたナマエさまを見て私ははっ、と今日に戻る。



「ナマエさま、失礼ですがこれは…?」


「え…?あ、朝もう一度点検した時にちょっと切っただけです…寝ぼけて」



馬鹿ですねあたし、と苦笑いする彼女の左頬に手を添えてなるべく痛い思いはさせないように親指で少しだけ傷口に触れると、白かった私の手袋はうっすらと赤に染まった。
それはまだ傷が付けられたばかりである証拠でもあった。
乗務員席をその場にいた持ち場の駅員に託し、ナマエさまを引っ張り終着駅の駅長室へと連れ込む。
頬に傷をつけたままの彼女をソファに座らせ、赤い十字のシールが貼られた箱を漁る。



「ノボリさん…?あの、大丈夫ですからこのくらいの傷、仕事上日常茶飯事ですし」


「いけません、傷を見してくださいまし」



彼女の髪を耳に掛け顎を少し持ち上げると、消毒液を浸した脱脂綿をピンセットで摘み傷口を丁寧に消毒する。
痛くないようにしたつもりだったがやはり消毒液が滲みるのだろう、痛みに表情を歪ませたナマエさまにもう少し我慢してくださいまし、と一声掛けてすぐに絆創膏を貼った。



「すいません、お手数かけました」


「いいえ、ナマエさまのせっかくの綺麗なお顔に傷が残ってはなりません」



一瞬驚いた顔をしたナマエさまは本当に少しだけ、頬を染めて油塗れの女に何を言いますか、と戸惑ったように視線をふらふらと宙にさまよわせた。
そんな彼女を見てなんだかとんでもないことを自分は口走ったような気がして、私まで顔の熱が上がった。




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