シングルトレインを車庫に入れるといつものように彼女の姿はなく、代わりに水の流れる音が仕切りに聞こえてきた。
音のする方へと近付くと、設置されている蛇口の前でうずくまる整備士。
「…ナマエさま?」
「わっ、すいません今すぐ点検しますから…」
声を掛けるとやはり彼女。
普段はバケツなんかを洗ったりする洗い場の前で何事かと思えば髪をしっかり洗っていらっしゃるナマエさま。
訳を聞けば、此方に来る前になんでも盛大に工具やらをぶちまけたらしく油が髪に付いてしまったらしい。
だからと言ってこんな水道で洗わなくったって良かったのに。
まだ拭いてもいない彼女の髪からは冷たい雫が滴り整備士の制服を濡らしていく。
そのまま仕事をしようとしたナマエさまを引き止めて、彼女の物と思われるタオルを頭の上から被せその場に座らせる。
「あ、あの…」
「このまま仕事をされる気ですか、それはなりません」
「うわっ、ノボリさん…?」
「貴女様が風邪でも引いたら困ります」
なるべく優しく扱うように彼女の髪の水気を取る。
それでもナマエさまは、あたしが体調崩したってあたしより優秀な代わりの整備士さんなんて沢山いるでしょう、そんな事を笑ってさらりと言う。
「何を仰いますか、どんなに貴女様より優秀な整備士が代わりをしてくださったとしても、それは貴女様の整備したシングルトレインではありません」
「ちょっと待ってくださいよ、あたしの整備なんてただ単に普通の…」
「わたくしは貴女様の整備したシングルトレインでバトルをするのが好きでございます」
「そんなの困ります、ノボリさんはあたしの腕を買いすぎです…」
「それだけではございません、わたくし、貴女様のお姿が見当たらなくては仕事を始める事も終わる事も出来ません」
ナマエさまをそっと引き寄せるとタオル越しに洗ったばかりの良いシャンプーの香りが鼻を掠めた。
驚くほど歯が浮く様な台詞が自分の口からすらすらと出て来たものだ。
だがそれは一時的なもので、すぐ近くで照れ臭そうに俯くナマエさまを見ると急に先程迄の自分が恥ずかしくなり、彼女を離した。
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