今日は線路点検なのでいません、と朝言われた通り彼女は終電後車庫にはいなかったが、やはり彼女に会わないままでは私の仕事は終わったことにはならない気がして、少し小走りにシングルトレインの線路を行くと最近電池を換えたばかりなのに、と呟くナマエさまが懐中電灯を手で叩いていた。
弱々しい懐中電灯は叩かれて瞬間明るくなるがまた消えそうにトンネルの壁を照らす。



「シャンデラ、ナマエさまの足元を照らして差し上げなさいまし」


「…ノボリさん?」


「懐中電灯、危ないのでしょう?」



シャンデラの炎では青白く、灯りの代わりには余り向いていない。
それでもボールから出て来たシャンデラはいつもよりも多くの炎を噴き出し目一杯周りを明るくしてくれた。
彼女のサンダースがシャンデラの側に寄り、一声鳴き声をあげる。
ありがとう、とナマエさまに撫でられたシャンデラは嬉しそうにゆらゆら揺れた。
私も同行致します、と隣を歩くとナマエさまはまだまだ時間が掛かるから身体を休めるように、と気を使う。
そう余所見をして後ろ向きに歩くナマエさまは何かに躓きバランスを崩される。
咄嗟に身体が動いた私は、ナマエさまの腕を片手で掴みもう片方の手を彼女の腰に回していた。
無駄に近くなった距離に心臓が飛び出してきそうなのをぐっとこらえて彼女を支える。



「お怪我はございませんか?」


「あ、えっと…すいません」


「いえ、足元に気を付けてくださいまし」



こくこくと頷くナマエさまの顔色がシャンデラの青白い炎でよくわからなかったが、きっと私と同じ色をしていただろう。
ナマエさまの戸惑う視線がそれを物語る。
何時までも掴んでいる腕をぱっと放し、視線を感じて其方に目をやるとくすくすと笑うシャンデラとやれやれと呆れるサンダース。



「…参りましょうか」


「そう、ですね…」



それを見ていた私達はパチッと目が合い、ぽつりぽつりとぎこちなく会話をする。
それが何故か気恥ずかしくなって、私は帽子を深く被り直した。




back / next

cover
top