ナマエの作る食事は、いつでも美味しかった。
誰かとテーブルを囲んで、談笑しながら食事をすることなんてしばらくなかったから、それがまた良かった。
ナマエはこの土地のことを、たくさん教えてくれた。
豊穣の王の話、大木に集まる3匹の渡り鳥のポケモン達、ずっと開かないいくつかの遺跡。
どれも興味深かった。
それにナマエは、彼女自身のことも僕に話してくれた。
ランプラーとの出会い、カンムリ神殿に行く理由。
そして、病弱な身体のこと。
しかしナマエは、そのことを微塵も嘆いてなんていなかった。
ナマエは、支えてくれる子達が側にいるから何も怖くないと言った。
彼女は、強く生きていた。



「…僕、エンジンシティのジムリーダーだったんだ」


「そうだったの、強いトレーナーさんなんだね」


「うん、昔は…でももう今は全然だね」



弱くて辞めさせられちゃったよ、と鼻で笑って付け足した。
初めて、他人にこの話を自分からした。
話すことはない思っていたのに、何故か彼女には聞いてほしかったんだと思う。
燃やせばオッケー、みたいな強さももう通用しない。
じゃあ、勝つためにどうすればいいのか。
いろんなものを試した。
いや、何にでも手を染めた、と言ったほうが正しい。
けれど、そんな事をしたところで勝てる訳がなかった。
得られたものは、スポンサーや世間からの厳しい声だけだった。



「もう全部嫌になってた時に何故かここに来ることになっちゃってさ…なんか素っ気なかったよねきっと」


「ここに来て何もしないお客さんは、ちょっと珍しかったかも」



ふふ、と笑いながらそう言ったナマエに、僕は何も言えなかった。
ピオニーくんの代わりだったけれど、結果的には僕はここに来れて良かったと思っている。
彼女達の暮らしに触れて、忙しさや強さを求める余り、忘れかけていたことを思い出させてくれた気がしたから。



「カブさん」


「ごめん、こんな話…」


「別に、明日帰らなくったって良いよ」



ナマエのその言葉に、目を丸くした。
あぁ、そっか。
僕は、エンジンシティにまだ帰りたくなかったのか。



「元気になるまでゆっくりすれば良いよ、ここにはカブさんのことを悪く言う人なんて誰もいないから」



だって疲れちゃったんでしょう、というナマエの言葉に、今まで我慢していたものが溢れてきた。
情けないけれど、止まらなかった。



「それに助かってるの、私身体がこんなだからいろいろと手伝ってもらえて嬉しいから」


「…そう、だったら良いんだけど」



ランプラーが僕を慰めるように、その黒い平べったい腕で僕の頭をちょんちょんと触る。
その様子が、ランプラーもまだここにいても良い、と言ってくれているような気がした。
目元を強く押さえた左手から、涙が一滴、二滴とこぼれ落ち、テーブルを濡らした。




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