ただいま、と彼女の眠る部屋に帰ると、やはり嫌な予感は当たっていた。
ああ、だから今日は君を置いて行きたくなかったのに。
「ナマエしっかりするんだ、今ドクターを」
「いいの…ここにいて」
「でも…!」
握りしめた彼女の手からは、もう何も感じられなかった。
ドクターじゃない僕だってわかる。
ランプラーも黒い平べったい腕をだらんと下げて、彼女の側で浮いたまま悲しげに鳴いていた。
「ねぇカブさん、私のお願い、聞いてくれる…?」
「何だって聞くよ、だから…」
「ランプラーをね、預かってほしいの」
ひとりぼっちで寂しくなっちゃうでしょ、と彼女は掠れた声で言う。
どうして君は、僕に君自身のお願いをしてくれないのだろう。
そんなに弱い僕は、頼りないかい。
そう言いたかった。
けれど、ランプラーのことを心の底から心配して、カブさんなら大切にしてくれるから、と優しい眼差しを向けた彼女にそんなことは言えなかった。
わかったよ、と小さく呟くと安心したように彼女は笑った。
「…私、もう眠たくなってきちゃったな」
「身体に障るよ、もう…寝た方が、いい」
「おやすみなさい、カブさん」
ふふ、と笑った彼女はそのまま目を閉じた。
ただひたすらに涙が溢れ出た。
握りしめた手からいくつもの冷たい雫が伝い、布団を濡らす。
すると目の前から、暖かく、けれども青白く妖しく燃え上がる炎が見える。
ふと、そちらを向けば、さっきまでのランプラーとは姿が違った。
あぁそうか、持って帰ってきた、石だ。
それは、今まで目にした何よりも美しく、悲しい色をした炎を揺らめかせる。
「どうして、そんなに美しく燃え上がるんだい…シャンデラ」
悲しそうに鳴き続けるシャンデラは、ゴーストポケモンとして、そうしたわけじゃないと僕にはわかった。
きっと、彼女のお願いなんだ。
シャンデラは、魂を吸い取ってそれを燃やす、いざないポケモン。
「君と一緒にいてくれるなら、心配はいらないね」
ガラスのように透けた顔をそっと撫でてやると、シャンデラはこつんと額に触れてきた。
触れたところから、優しい暖かさがほんのりと伝わってくる。
それは、シャンデラの特性によるものではなく、彼女だったような気がして、また涙が頬を伝った。
シャンデラは慰めるかの様に、僕の側でゆらゆらと揺れ、彼女を淡い青白い光で照らす。
最期に言った言葉の通り、本当に、静かに眠っているようだった。
ふと視界に入った窓の外を見れば、帰ってきた時には降っていなかった白いものが、ひらひらと落ちていく。
今日も、フリーズ村は雪が舞っていた。
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