とても変わった人が、民宿にやってきた。
その人は、エンジンシティからやってきた、カブさん、という方だ。
昨日から7泊8日でここを利用されている。
初めはピオニーさんという名前で予約されていたのだが、なんでもその方が来れなくなってしまったそうで、代わりにカンムリ雪原にやってきた、と言っていた。
第一印象は、とても真面目そうで、ちょっとお堅い方、という感じ。
こちらに来た日は長旅で疲れてしまったのか、シャワーだけ浴びるとお客さん用の部屋からは出てこなかった。
今日の朝食はいらないと言われなかったので、いつものように用意をする。
焼き立てのパン、湯気の立つスープ、細かく砕いたきのみをトッピングしたサラダ。
きのみの好みがわからないけれど、とりあえずオレンのみにしておこうか。
立ち馴れた台所で順番に用意していると、私の後ろで漂うランプラーが、何かに気付いて鳴き声をあげる。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「えぇ、とても」
まだ少しだけ眠たそうな顔をした、カブさんがリビングにやってきた。
朝食を勧めれば、その人はすみません、と申し訳無さそうに並べられたお皿の前に座る。
さっき淹れたばかりのコーヒーをそっと目の前に置いた。
手を合わせいただきます、と呟くお客さんを見て、いつか同じようなことを食事の前にしていた人を思い出した。
そのお客さんは、どこから来た人だっただろう。
「そういえば、こちらでは何かなさる予定ですか?」
「なにも…本当に友人の代わりに来ただけだから」
「そうですか…」
少し、返事をするのに困ってしまった。
すみません、と謝る彼に、私も謝る。
いけない、顔に出ていただろうか。
ここにやって来る人は、大抵観光か調査、と答える。
たまに、トレーニングとか修行?という変わった人もいるけれど。
何も予定はない、と言った人は、この人が初めてかもしれない。
あまりオススメできる観光地もありませんが、とまで言ったところで、私はその続きは言わなかった。
あまり、お客さんの事情に踏み入ってはいけない。
「観光だけが旅ではないですから、立ち入ったことをお聞きしてすみません」
「いや、良いんです…今日はゆっくりしますから」
昨日もしてたような、なんてちょっと思ってしまったけれど、昨日は昨日。
とりあえず、笑顔だけは忘れないように接客に専念する。
もこもこと防寒着を着込んで、巨人の寝床に出かけます、と言うと彼は気をつけて、と玄関まで見送ってくれた。
ランプラーが腕をひらひらと振ると、カブさんも振り返してくれたようだ。
「なんだか不思議な方ね、ランプラー」
ランプラーにそう話しかけると、短く鳴いて返事をする。
あの人からは、旅行が楽しみでやってきたというより、寂しそうな、悲しそうな雰囲気を感じた。
虚無感、みたいな言葉が合うだろうか。
まぁ、あんまり人の事情を探るのは良くない。
今度のお客さんとも仲良くなれるといいね、とランプラーに言えば、私の周りをぐるぐると回って嬉しそうに返事をした。
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