「マリエシティまで用がある、付いてくるかい」
「良いんですか?」
暇そうなナマエに、そう声をかけてやると、いつになく嬉しそうにこちらを見て立ち上がった。
なにがそんなに嬉しいのやら。
マリエの図書館とブティック行きたかったんですよねと、いそいそと出かける準備をするナマエの後ろ姿は、なんだか愛嬌があり自然と口元が緩んだ。
無論、振り向いたナマエにはそんな顔を見せやしないが。
半人前もいいところではあるが、一応トレーナーと名乗れるくらいにはなったんだ。
たまには息抜きってもんも必要だろ。
「あれ?クチナシさんの用事は良いんですか?」
「…大した用じゃねぇ、もう終わったよ」
マリエ図書館で散々アローラの伝説について書かれた本を読み漁り、満足したナマエはマラサダが食べたいと言い出したので、連れて行ってやった。
軽快な音楽が流れる店で、お望みのおおきいマラサダをポリゴンZとアブソルと頬張るナマエがふと尋ねる。
そういえば、思いっきり嘘を吐いていたんだった。
今日は用事なんてものは、端っからない。
だが、ナマエはいつの間に、と疑う心もなく俺の言葉を鵜呑みにした。
アブソルは何か言いたげにこちらを見たが、口元に人差し指を持っていき言うなとジェスチャーすると、不満気な顔をしながらも大人しくマラサダを食べてくれた。
おまえは良いヤツだな。
「で、次は何したいって?」
「髪も切りたいなぁ、でも先に服を見たいですね」
「はいはい」
これしかないので、と来たときからずっと羽織っている白衣のような上着の襟を少し摘んで苦笑いする。
そういえばねえちゃん、交番にいる時はおじさんの適当な服を着て過ごしているんだった。
歳も若いのにそいつは不憫だ。
「でも良いんですか?なんか私ばっかり付き合ってもらってるような」
「その辺でバトル吹っ掛けられてねえちゃん勝てるのかよ」
「うっ、そうですけど…流石にお店でする人はいないんじゃ?」
ナマエは交番で暮らし始めて、随分と平和ボケしたようだ。
おまえさん、財団から死ぬ思いして逃げてきた身じゃなかったのか。
おじさんが良いって言ってんの、と少しぶっきらぼうに言うと、ナマエは申し訳無さそうに眉を下げて笑う。
賑やかなのは好きじゃないが、ねえちゃんの用事に付き合ってやるくらい訳ない。
「…どうしたもんかね」
首筋に手を持っていき、思いっきり溜め息を吐き出す。
今日一デカいやつだ。
こういうヤツは、随分と昔に失くしたものだとばかり思っていたのに。
何も知らずに、行きましょ、と店の出口で手を降るナマエを見て1人ひっそりと笑った。
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