「おはようございます、クチナシさん」
「おはようさん」
ポー交番の前で倒れていたねえちゃんは、あれからすっかり元気になった。
汚れの酷かった白衣のような羽織りも限りなく真っ白になり、顔色も健康的な女子そのものだった。
現在この交番は、俺の勤務先であり、ねえちゃんの仮住まいである。
名前はナマエ。
相棒には、アローラでは珍しいポリゴンZを連れている。
歳も幾らか若いようだが、しまキャプテンを出来るような年ではないらしい。
ここに来る前までは、エーテル財団の職員だったようで、思った通り訳あって交番前で倒れていたようだ。
ここ数日で得られたねえちゃんの情報は、それだけだった。
それ以上、自身のことを多くは語らなかったからだ。
おまわりさんとして、こんな訳ありねえちゃんを、そのまま外に追い出すわけにもいかなかった。
かといって、あんな治安の悪いポータウンに住まわすことも賢明ではない。
結果、この交番で好きに暮らすように提案した。
最初のうちは先住のニャース達に引っ掻かれ噛み付かれ、生傷絶えず苦労していたようだ。
だが、最近はどちらも慣れて来たらしく、それなりに上手くやっているらしい。
ポリゴンZも共に同じ皿の飯を食べる仲となったようだ。
「ほらよ、今朝の新聞」
「ありがとうございます、朝食どうされます?簡単なものならありますけど」
「もらうよ」
交番といってもタダで住むわけにはいかない、とねえちゃんはこうして気を遣う。
まぁ、手伝ってくれるというなら助かるってもんだ。
ねえちゃんは、簡単といってもそこそこバランスの良さそうな朝食を俺の前に置くと、狭いソファの隣に座った。
先程手渡した新聞を広げると、隅々まで読み始める。
今日の1面は、エーテル財団自慢のポケモン保護区をバックにした財団代表の女性が、ポケモンと微笑ましく写った写真が大きく載っていた。
“エーテル財団、一般トレーナーへの保護区見学を歓迎”などと、最もらしい見出しが付けられた記事だ。
一通り読むと、ねえちゃんは眉をひそめ怪訝な顔をした。
「外面だけは良いんだから…ホントはこんなのどうだって良いくせに」
「嫌いか、そのねえちゃん」
「…まあそんな感じです」
そもそもねえちゃんなんて歳じゃないですよ、と紙面のエーテル財団代表を人差し指でトントンと叩いた。
40過ぎてんだろ、と付け加えると、ご存知ですか、と深い溜め息を吐き出す。
自身がその職員だったわりには、組織や代表を嫌がったりする素振りが、あの行動に至った理由と見て間違いはなさそうだ。
だが、その経緯はどうにも話したくないようで、この類の話になると必ず黙り込んでしまう。
死ぬような思いをしてこんなところまで逃げて来たんだ。
話したくないのもわからなくはない。
「もう良いんです、今のは気にしないでください」
「…そうかい」
ちゃちゃっとご飯食べてくださいね、とねえちゃんは笑って誤魔化したつもりだったようだが、少しだけ悲しそうな顔をして赤い唇を噛み締めたのを見逃しはしなかった。
back / next
cover
top