「私と勝負してください」



朝食を摂っていると、ナマエさまにそう言われた。
茶碗と箸を机の上に置いて私をまっすぐ見たナマエさまの顔は、いつものような崩れた笑顔ではなく、真剣そのものだった。
そんな彼女の様子に、胸の高鳴りがいつも以上に増す。
つい口に入れた飯を噛むことも忘れて、飲み込んでしまったくらいだった。










先鋒、ゴースト。
ゴーリキーにとっては、少々厄介な相手だ。
すてみタックルもいわくだきも効かない。
生憎素早さでも先制は取れないが、攻撃さえ当たってしまえば、苦戦する相手ではないはずだ。
そう思ってはいたが、ナマエさまもそう易々と倒されるつもりもないらしい。
さいみんじゅつで動きを鈍くしてきた上に、ベノムショックで追い込んでくる。
いつかに見た戦法を、彼女は確実にものにしていた。
眠気に耐えたゴーリキーのバレットパンチで何とか倒すも、受けたダメージは決して小さくなかった。
中堅、ガバイド。
ゴーストからの連戦に加えて、タイプ一致のドラゴンクローが直撃し、私のゴーリキーは戦闘不能になる。
こちらからはモンジャラを繰り出す。
まずはしびれごなで麻痺させて、その素早い動きを封じることに成功した。
ただ、依然として向こうの方が攻撃力は高い。
幸い防御は多少あるため、何度か攻撃は耐えられたものの、ナマエさまは早業と力業を上手く使い分けて私のモンジャラを倒した。
私の最後のポケモンは、グライオン。
ガバイド相手には覚えている技の相性があまり良くないが、モンジャラのしびれごなが功を奏した。
動けなくなった一瞬の隙を見て、でんこうせっかとつばめがえしを立て続けに当てれば、流石のガバイドも目を回す。



「やっぱり、簡単に勝たせてはくれないんですね」


「勿論でございます、ポケモン勝負は真剣でなければつまらない」



帽子を深く被り直し、彼女の方を見る。
突き刺すような鋭い眼光、ナマエさまも負ける気などないと言う目だ。
そして、この状況を楽しんでいるかのように吊り上がった口角。
それは、見覚えのある誰かの表情のそれだった。
最後に繰り出すモンスターボールからは、大将、ヌメイル。
出てきた途端に、たてこもるで守りの力を上げてきた。
同時に煙幕に包まれたヌメイルには、狙いが定まらず攻撃の選択肢が狭まる。
唯一当てられたのはつばめがえしだったが、たてこもるヌメイルに与えられるダメージは、ほとんどない。
これは長期戦に持ち込むつもりだろうか。
いくらグライオンが攻撃を当てたところで、最早びくともしないレベルだ。
そして何度目かのつばめがえしで、ヌメイルに直接攻撃しようと、近付いたその時だった。



「今だ!ハイドロポンプ!」


「グライオン避けてください!」



零距離で放たれるハイドロポンプに、流石のグライオンも避けきれず、凄まじい水の力で後方に吹き飛ばされた。
追い込まれているはずなのに、私は興奮が背中を駆け上がる感覚がした。
緻密に立てられた戦略、適切な状況判断、相手とポケモンとの駆け引き、その全てが勝敗を分けるような戦い。
こんなに気分が昂ぶる勝負は、なんだかとても久しぶりだ。
まだ行けると立ち上がるグライオンに、私は応えるように頷いた。
それを合図に持ち前の素早さを生かして、でんこうせっかで近付き相手の背後に回り込む。
そして、たてこもる技の効果が薄れ、防御が甘くなったヌメイルの隙をついて、力業でどろばくだんを叩き付けた。
ギリギリだった。
もうあと一擦りでもしたら、敗北へ向かうところであった。





「結構頑張ったと思ったんですけど…まだ私は弱かったですね」


「いえ、僅かながらわたくし達がナマエさまを上回っただけです」



相棒をボールに戻した彼女は、小さく呟いた。
そんなことはなかった。
ナマエさまは、弱くなかったからだ。
そう言っても、彼女は納得することはなく首を横に振る。



「…次は、絶対に負けません」



ナマエさまは悔しそうに唇を噛んだが、その後には私の方を見て少しだけ笑ってみせる。
彼女は、もう決して涙は見せなかった。




back / next

cover
top