数日前にナマエさまから、オオニューラが持っているような背負える籠が欲しい、と言われた。
その時は用途がわからなくてそのまま彼女に譲ったのだが、今になってその使い道がわかった。
「ナマエさま」
「すみません、ノボリさん」
でも私決めたので、と言えば私の家にあったはずの彼女の私物がなくなっていた。
それらは、すべてその背負った籠に詰められていたからだ。
「…どちらへ向かわれるのですか」
「コトブキムラにペリーラさんという、手練れの者がいるそうです」
ナマエさまはコトブキムラへ向かい、ギンガ団のペリーラという方に会いに行くと、と仰った。
なんでもその人はギンガ団の警備隊を束ねる長だそうだ。
ポケモンを戦わせることのできる数少ない方々の長となれば、手練れの者というのも納得である。
そこで彼女は、更なる高みを目指したいと言っていた。
強い相手に向かっていってこそ、自身も強くなれるというもの。
それはわかっている、わかってはいるが。
「…わたくしでは、不十分でしたでしょうか」
「え?」
もう一度、同じことを言えたら良かったのに、私は何でもありませんと言った。
私には、引き留める正当な理由もないからだ。
彼女がその人と出会うことで強くなれると思うならば、尚更である。
「どうかお身体には気を付けて」
「やだな、今生の別れみたいに言わないでくださいよ」
「そうでなくても、貴女様には健やかであってほしいのです」
ナマエさまは驚いたような顔をしたが、少しだけ笑うと控え目に礼を言った。
ナマエさまが、家の外へと繋がる扉を開ける。
私もそれなりに歳を重ねているというのに、未練がましい気持ちばかり湧き上がってきた。
そんな私の心が、顔にでも出ていたのだろうか。
彼女は少しだけ困ったように眉を下げる。
「ノボリさんの相手に相応しいと思えたら、また戻ってきます」
だからその時まで待っていただけますか、と私に約束をさせた。
そう言って笑ったナマエさまのその表情は、先程とはまるで違って実に晴れやかな笑顔だった。
そんな彼女を、誰が引き留められると言うのだろうか。
お待ちしております、とだけ言うと私はそれ以降、ナマエさまの姿を見ることはなかった。
いや、見れなかった。
大きく手を振って去っていくナマエさまをずっと見送っていたら、私はきっとその手を掴んで引き留めてしまいそうだったから。
私に相応しい相手とは、何なのか。
そんな風に、ならなくても良いから。
「…側に、いていただきたかったのですが」
その言葉は遠ざかる彼女に届くわけもなく、晴れた青空に吸い込まれていった。
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