ナマエさまがコトブキムラに向かってから、随分と月日が経った。
彼女が来る前の、あの静かだった自宅にはもう慣れた。
少し前までは、あの日の自分の行動に後悔したり、がむしゃらに己とポケモンを鍛えたりしていたが、今となってはそんな日々もなくなっていて、慣れとは怖いものである。
そして、オオニューラも私のポケモン達も、あまり寂しそうな顔はしなくなってきた。
オオニューラは世話で私1人だけが訪れても、もう何も言わない。
だから、いつかのように少しだけ高い岩場に腰掛けて、オオニューラの籠のほつれを1人修理していたところだった。
「すみません!」
背後から、聞き覚えのある声がして耳を疑った。
疲れているのだろうか、籠を修理する手が思わず止まる。
「…何か」
「シンジュ団キャプテン、ノボリ様とお見受けしました」
その声の人の顔を見ることに躊躇いを感じて、帽子の鍔を下げてから肩越しに少しだけ振り返る。
左様でございます、と私が言いかける前に訪ね人は私に言う。
「私ギンガ団警備隊副隊長、ナマエと申します」
はっきりと聞こえた名前にはっとする。
視界に捉えたその人は、私が待ち続けた人。
初めて貴女様とお会いして、お譲りしたあの時の着物のままだ。
ただその上からは、先程名乗ったとおり、袖に何度か見かけたことのあるギンガ団の紋様が入った赤い羽織を羽織っている。
「私とお手合わせ願えますか?」
そう言って、笑いかけた彼女はやはり変わってしまったようだ。
笑った瞳の奥に、私と共にいた頃にはなかった強者の目が確かにあった。
そして、自分が彼女を一瞬でも疑ってしまったことに後悔した。
ナマエさまは、コトブキムラでも高みを目指していたのだ。
「お待ちしておりました、ナマエさま」
帽子を深く被り直し、座っていた岩場から降りると、モンスターボールを取り出す。
彼女も同じようにボールを取り出すと、軽く宙に放る。
落下してきたボールをタイミングよく掴むと、そのまま手前へと投げてきた。
モンスターボールがぱかりと開き、光に包み込まれて出てきたポケモンは、私の知らない姿になっていた。
ゲンガー、やはりゴーストは進化をしていた。
当然だろう、あの瞳を見ればそのくらいは容易に想像がつく。
私もボールを真上に放って、1体目にカイリキーを繰り出す。
「さて、どのように戦われるのか、楽しみでございます」
「ご期待に添えられると良いのですが」
彼女が指示を出すと、何故かゲンガーは彼女の後ろへと隠れてしまった。
どういうことか、考えている暇なんてないほど一瞬の出来事だったのだ。
彼女の影を使って、私のカイリキーの影から飛び出してきたゲンガーは、至近距離から素早く黒い球体を作り出しシャドーボールを放つ。
腹部辺りに攻撃を受けたカイリキーは、後退しながらバランスを崩し片膝を着く。
ああ、素晴らしい。
随分と前にも感じた、あの興奮が背中を駆け上がる感覚がまた蘇る。
それも今回は比べものにならないくらい、強烈に。
私の相手に相応しい、とはこういうことだったのだろうか。
それならば、誠に光栄である。
巡礼者の道の真ん中で突如始まった勝負は、物静かな場所に似合わず激しい戦いの予感がした。
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