「ダイケンキ、アクアテール!」
テルさまのダイケンキの尾が水を纏い、勢いをつけて回転しゴウカザルに向けて打ち付けられる瞬間だった。
彼女の声を合図に、ゴウカザルは高く跳び上がり身体を翻す。
その身のこなしはとても軽く、まるでアゲハントが舞うかのよう。
「今だ、インファイト!」
アクアテールが当たらなかったダイケンキのその隙だらけの背中に、目にも止まらぬ速さでゴウカザルの拳が次々と叩き込まれる。
最後の強烈な一撃が見事に入ると、その勢いのまま訓練場の柵に激突し、激しい音を立ててそれは壊れた。
砂煙の立ち上がるそこから見えたのは、目を回しぐったりと倒れ込むテルさまのダイケンキ。
勝負あり、彼女の圧勝である。
「そんな、ここまで手も足も出ないなんて…」
「強いでしょう、あのお方は」
ゴウカザルを両手で撫でて笑う彼女を見つめる。
相棒を亡くし、弱いと、無力だと泣いていた頃の面影など今の彼女にはどこにも無かった。
悲しみの淵に沈んでいた彼女は、自力で立ち上がり高みを目指した。
そして今では、訓練場で最高峰の勝負に誘ってくれる。
そんな彼女は、まるで。
「…彼者誰時のような人」
「ノボリさん…?」
ふと、笑みが溢れて何でもございません、と帽子を深く被り直す。
ああ、テルさまの勝負を見ていたら、なんだか私も心が高鳴ってきた。
テルさまと挨拶を交わす彼女に、声をかけると彼女は嬉しそうに笑う。
「テルくん、まだまだ強くなれそうね」
「ええ、彼はわたくし達よりも強くなれるかもしれません」
「それは負けてられないな」
腕を組み私を見上げる彼女を誇らしくも、愛おしくも思う。
この人が隣にいる日々が、私にとってこの上ない幸せであるのは間違いない。
「ナマエ、わたくしともお手合わせ願えますか?」
「もちろん!そうこなくちゃ」
テルさまに審判の役割をお願いして、それぞれの位置に付く。
彼女はボールを取り出すと、軽く宙に放る。
落下してきたボールをタイミングよく掴むと、そのまま手前へと投げてきた。
その癖も、あの頃と何ら変わりない。
ボールからぽんと出てきたポケモンはゲンガー。
彼女の足元に隠れるのが好きな彼は、控えめな性格なのにこちらの意表を突くような変わった攻撃が得意。
彼女と彼女のポケモン達のことは何でも知っているはずなのに、何度勝負しても私の気分を昂らせ飽きさせない。
「手加減なしでいいよね?ノボリ」
「勿論でございます」
そう、ポケモン勝負は、真剣でなければつまらない。
彼者誰時の君
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