「ダイケンキ、アクアテール!」
ダイケンキの尾が水を纏い、勢いをつけて回転しゴウカザルに向けて打ち付けられる瞬間だった。
絶妙なタイミングの合図で、ゴウカザルは高く跳び上がり身体を翻す。
その身のこなしはとても軽く、まるでアゲハントが舞うかのよう。
まずい、今このタイミングで避けられたら。
「今だ、インファイト!」
攻撃が当たらなかったダイケンキのその隙だらけの背中に、目にも止まらぬ速さでゴウカザルの拳が次々と叩き込まれる。
最後の強烈な一撃が見事に入ると、その勢いのまま訓練場の柵に激突し、激しい音を立ててそれは壊れた。
砂煙の立ち上がるそこから見えたのは、目を回しぐったりと倒れ込むおれのダイケンキ。
勝負あり、おれは完膚なきまでに叩きのめされた。
「そんな、ここまで手も足も出ないなんて…」
「強いでしょう、あのお方は」
今日は訓練場のノボリさんに、ノボリさんが1番強いと思う人と戦ってみたい、とおれから頼んでみた。
すると、私が1番強いと思う方です、と言って警備隊副隊長のナマエさんを紹介してくれた。
あまりムラでは見かけない人だったけれど、おれも少しだけ噂は聞いたことがあった。
もの凄くポケモンの扱いが上手な人がいる、と。
「テルくん、どうもありがとう」
「いえ、おれの方こそありがとうございました」
ナマエさんから手を差し出され、その手を取る。
全然勝てませんでした、と言えばその人は久しぶりに本気出したかも、と笑い飛ばす。
勝負のあとの挨拶を交わしていれば、いつも通り口角の下がったノボリさんがナマエさんに声をかける。
だけど、その雰囲気はいつもよりどこか柔らかいような気がした。
「テルくん、まだまだ強くなれそうね」
「ええ、彼はわたくし達よりも強くなれるかもしれません」
「それは負けてられないな」
さっきのおれの勝負を見て、どの辺がもっと強くなれそうなのか、正直教えて欲しかった。
おれにはそんな素質、微塵も見いだせなかったんだけどな。
けれど、腕を組みノボリさんと話すナマエさんも、なんだかとても嬉しそうに見えた。
「ナマエ、わたくしともお手合わせ願えますか?」
「もちろん!受けて立つよ」
「テルさま、少々お願いが」
ノボリさんのお願いとやらを聞けば、審判の役目を頼みたい、と言われた。
この後特に用もないおれは、その申し出を引き受けた。
なにより、あの強いノボリさんが1番強いというナマエさんと勝負したらどうなるのか、純粋に見てみたかった。
それぞれの位置に付いた2人は、それぞれのボールの投げ方でポケモンを出す。
ナマエさんはゲンガー。
ノボリさんはフーディンだ。
普通に考えれば、ゲンガーの方が優勢に見える。
「手加減なしでいいよね?ノボリ」
「勿論でございます」
勝負の合図をおれがかけた瞬間、2体のポケモンは目にも止まらぬ速さで互いに中央に寄り、同時にシャドーボールを撃ち合う。
2つのシャドーボールが激しくぶつかり合い、強い風を巻き起こすと、砂埃が円を描くように舞い上がった。
咄嗟に腕で顔を覆ったけど、訓練場の砂や小石がびしびしと顔に飛んでくる。
ああ、ただの好奇心なんかで見ていい勝負じゃなかったのかも知れない、なんて、少しだけ審判を引き受けたことを後悔した。
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