ーーこの世界にやって来てから、幾ら経っただろうか。
此処での暮らしには、大分馴染んできた。
キャプテンという使命にも、ようやく慣れてきた頃だったと思う。
いつもと同じルートをいつもと同じように歩き、オオニューラの元へと向かおうとする。
通常運転の予定だった。
だが、その途中で普段は見掛けないなにかが、ぽつんと見えた。
落とし物か、それにしては大きく、かと言ってポケモンにも見えなかった。
不審に思い近付いてみれば、蹲る1人の人。
その紺色の服は、ところどころ破れており汚れも酷かったが、コンゴウ団の方が着ているものとよく似ている。



「あの、如何いたしました…」



最後まで言い終わる前に、言葉は途切れた。
何故なら、私の声に気付いて上体を起こしたその方のその服は、コンゴウ団の証であるシンボルがわからなくなるぐらいに、赤黒く汚れていたからだ。
膝をつきしゃがんでその方をよく見れば、酷く充血した瞳から涙を溢していた。
零れた涙は、深すぎる傷を負って特徴的な黄色い身体がわからなくなってしまう程に、真っ赤に染まったポケモンにぼたぼたと落ちていく。



「すぐに手当てを」


「…いいんです、もう遅いから」


「しかし」



彼女の手元のポケモンに触れようとすると、その方は私の手を振り払って、護るかのように胸に抱え込む。



「もう!死んでるんです!手当てなんてしたって意味ない!」



その言葉に目を丸くした。
それと同時に、申し訳ないことをしたと思った。
もうとっくに息を引き取っていたというのに、手当てをしようだなんて。
なんて非情な言葉を掛けたのだろう。
大変失礼いたしました、と帽子の鍔を下げれば、彼女は引き続き大粒の涙を落として泣きじゃくる。



「自分よりも何十倍も大きな、ハガネールに、立ち向かっていって」


「…ええ」


「ダメだって言ったのに、言うこと聞かなくて…終いには私を、崖から落としたんです」



その方は手元の小さなポケモンを強く抱きしめると、ぽつりぽつりと私に事情を話し始めた。
カミナギ山道にいる一際大きな身体のハガネールに、彼女達は襲われたらしい。
逃げようとしたが、あの辺りのゴツゴツとした岩が立ち並ぶ足場の悪い道に足を取られてしまったようだ。
すると、彼女の相棒が彼女を護ろうと、その巨大なハガネールに立ち向かって行ったという。
どんな攻撃をしても、そのハガネールには全く効かず、散々反撃を受けた相棒をまた彼女も護ろうとした。
だが、相棒はそれを許さず、彼女をハガネールから護るため、崖から突き落とした。
手元の小さなピカチュウは、その生命ある限り主人を護り抜き、そして力尽きた。
彼女はそう私に話してくれた。



「私が、強かったら…ピカチュウは死ななかったですか」


「それは」


「君を護ってあげられるくらい、私…強くなりたい」



彼女はそういって、また大粒の涙を流した。
それでも、腕の中の小さな相棒は冷え切ったまま、目を覚ますことはない。
情けないことに私は、そんな彼女の背中をそっと撫でてやることしか出来なかった。




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