その日、巡礼者の道の途中で出会ったコンゴウ団の方を、こっそりと自宅に招き手当てした。
崖から転落したと言っていた彼女だったが、足の捻挫と背中の打撲だけで、思っていたほど大きな怪我はしていなかったようだ。
それは紛れもなく、小さなカゴの中で眠る彼女の相棒のおかげだった。
そんな勇敢な相棒をきちんと弔いたい、という彼女の想いを聞き、翌日列石峠の一角に埋葬することを提案した。
オオニューラを呼び助けを借りれば、列石峠への道のりは普通に歩いて行くよりも、幾らか早く到着出来た。
道中、オオニューラの背負う籠の中からすすり泣く様な声が聞こえて、オオニューラは中の人間が気になったのか何度か立ち止まる。
大丈夫です、と言ってやれば籠を横目で見ながらもオオニューラは目的地へと案内してくれた。
「列石峠、定刻より少々早く到着いたしました」
「…寂しいところですね」
でも静かで良いです、と相棒の入った小さなカゴを抱きしめる力を強めると、彼女は悲しそうに笑う。
列石峠の中で1番高い、墓標のない場所を選ぶとそっと相棒を埋葬した。
墓標の代わりに、オオニューラがくれた少し大きめの木の枝を地面に深く刺すと、彼女はその前で跪き両方の掌を合わせて祈る。
粗末な木製の墓標の横で、ムシヨケソウがゆらゆらと揺れた。
「すみません、こんな事に付き合ってもらってしまって」
「構いません、お役に立てたのなら何よりです」
ありがとうございました、とぺこりと頭を下げると彼女は立ち去ろうとした。
その彼女の酷く寂しそうな後ろ姿を見て、私は彼女にもう一度声をかける。
今、ここで彼女を引き止めなければ、もう二度と会えないような気がしたから。
「わたくしと共に、高みという目的地を目指しませんか」
「…どういうことですか?」
「貴女様は強くなりたいと、仰っていました、ですから」
私と共に精進を重ねませんか、ともう一度言う。
すると、彼女は目を丸くして私を見上げた。
その瞳は段々と涙が滲み、遂にはぽろぽろと溢れ落ちると乾いた列石峠の地面を濡らしていく。
「貴方に付いていけば、私は強くなれますか」
「ポケモンには多少の覚えがあります」
「…そうですか、わかりました」
彼女は、血濡れたコンゴウ団の服を脱ぐと、ばさりと右手で乱暴に持って私の横を通り過ぎる。
あまりにも突然の行動に、私は2度瞬きをした。
「二度と君と同じ思いはさせないよ」
弱かった私とはお別れね、と小さく呟くと、先程出来たばかりの墓標の先端にコンゴウ団の証である服の襟元を突き刺す。
その様子は、そこで静かに眠る昔の相棒と約束を交わしているかのようにも見えた。
息を整えると、彼女は涙を拭って振り返る。
「私はナマエです」
「わたくし、シンジュ団のノボリと申します」
「行きます、その高みという目的地」
私を見下ろしたその鋭い眼光は、道の隅で蹲って泣き続けていた小さな背中の彼女のものとは思えないほどだった。
この瞳に似たような目を、私は何処かで見たことがあるような気がしてならなかった。
「では、出発進行」
彼女の手を取り私がそう言えば、ナマエさまは少しだけ笑って見せた。
その後ろでは、木の枝にかかった紺色の服が、見送るようにひらひらと風に揺れていた。
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