「じめんタイプにでんきって効かないんですか?」
この言葉に、私はとても驚いた覚えがある。
ポケモンは恐ろしい生き物だと、未知の生物だという認識があるヒスイ地方。
ここでは、ポケモンにタイプなるものがあること、それらに相性というものがあるということを知らない者も少なからずいた。
彼女はその1人であった。
彼女の質問に左様でございます、と答えれば、はっと何かに気づいたような顔をする。
「だからハガネールにあの子の攻撃が全然効かなかったのね…」
「逆にハガネールの使う10まんばりきなどのじめんタイプの技だと、でんきタイプは2倍ダメージを受けます」
なるほど、と眉間にシワを寄せて手元の紙にさらさらと筆を走らせる。
あの日列石峠で声をかけたナマエさまは、私の家でポケモンについて学ぶようになった。
彼女がコンゴウ団の服を脱ぎ捨てたその意味には、元々いた居場所も捨てたことが含まれていた。
だから、彼女には帰る場所がなかった。
私も帰るところがなかったあの頃、シンジュ団に世話になった身である。
いくらか若い女性を男の家に置くなど、あまり良い提案ではないとは思ったが、私は彼女に衣食住を提供した。
そうでもしないと、きっと彼女はいなくなってしまうと思ったから。
衣服は無理を言って、シンジュ団のカイさまに幾らか見繕っていただいた。
食事はいつもの倍作るようにしているが、それでも鍋は空になってしまう。
住居は、言うまでもない。
ずっと使っていなかった上の段の布団を使ってもらっている。
だから、ちゃんと、寝床は別々だ。
オオニューラの世話と家を行ったり来たりするだけの単調だった生活から、ほんの少しだけ、彼女がやって来てから変わった気がする。
これまで私以外には誰もおらず静まり返っていた家の中は、今ではナマエさまとの会話が夜遅くまで響く。
「まずは効果がない相性を覚えましょう、そうすれば無意味な攻撃をしなくて済みます」
「ええと、ゴーストにかくとうは効かないですね?あとは、フェアリーは…なんだったっけ」
「ドラゴンタイプは効きません」
そうそう、と思い出したように彼女は頷いた。
私の一言一言を、ナマエさまは忘れないようにと手元の紙に書き記していく。
そんな光景に、少しだけ何かを思い出せそうだった。
とても昔のことだと思うが、誰かとこうしてポケモンの話をしていた気がする。
ポケモンのタイプや覚えられる技を、いろいろと調べていた。
そしていつかどんなポケモンを仲間にしたいか、どんな勝負をしたいか。
そんなような事を、毎日、夜遅くまで、語り合っていたと思う。
「…なんだか、懐かしい気がします」
「どうかしました?」
「いえ、わたくしの独り言にございます」
エスパーが効かないのはあくタイプですよ、と真逆に書かれていた彼女の覚書を訂正する。
全然覚えられないな、と頭を抱えた彼女に本日はもう少しだけ頑張りましょう、と励ましの言葉をかけた。
効果抜群の相性、効果が今ひとつの相性、状態異常、技の種類、ポケモンの能力、性格などと、まだまだ彼女が強くなるために、覚えることはたくさんある。
一つ一つ懸命学ぶナマエさまの姿を、私は見守るように眺めていた。
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