ある日の昼下がり。
ナマエさまは、険しい顔をして立っていた。
その前には、そんな彼女とはまるで違い、楽しそうに左右に揺れるポケモン。



「ヌメラ、アシッドボム!」



小さな口を大きく開けて、相手を溶かすともいわれる液体を吐き出す。
それが円弧を描き、私のモンジャラにばしゃりと掛かるとモンジャラは嫌そうに顔をしかめた。



「タイプの相性をきちんと理解していらっしゃいますね」


「でもなんだかあまり効いてないような…」


「レベルの差もありますので、仕方ありません」



ポケモン勝負に慣れてもらうため、私はナマエさまに手合わせを願った。
初めてポケモンを戦わせる彼女はまだ戸惑っているようで、なかなかヌメラに指示を出せないでいた。
そんな彼女に続けて技を出してみましょう、とそれとなく攻撃を促す。
再びアシッドボムを彼女が指示すると、ヌメラは少し間伸びした鳴き声をあげて先程と同じように紫色をした毒々しい液体をモンジャラに掛けた。
私のモンジャラの体力がある程度削られた頃、こちらからも反撃を試みる。



「モンジャラ、エナジーボールです」


「うわ!?えっと、みずのはどう!」



モンジャラの放つ黄緑色に輝く球体に、水の波動を上手く当てることでエナジーボールを相殺し、ヌメラ自身にその技が当たることはなかった。
ブラボー、スーパーブラボーだ。
彼女はもしかすると、ポケモン勝負における才があるのかもしれない。
こんな咄嗟の判断、普通なら出来ないはずだ。
徐々に高鳴る鼓動に、相手が初心者だったことも忘れて、つい本気の勝負を仕掛けてしまう。
エナジーボールを立て続けに繰り出し、げんしのちからで留めを刺そうと、モンジャラに指示しようとした時。
私の耳にようやく慌てるナマエさまの声が入ってきて、我に帰る。
しまった、つい、熱くなってしまった。
言いかけたいわタイプの技から、しびれごなに変更する。



「ヌメラ!」


「ナマエさま!」



そう叫んだ彼女は、自分の小さな相棒を右腕に抱えて庇い、あろう事か自身の背中でしびれごなを受けた。
ポケモンの技を生身で受けようなんて、なんて無謀なことをするのだろう。
途端にナマエさまの服は黄色く粉塗れになり、その粉を吸い込んだせいか咽せてその場に蹲った。
しびれごなの効果が本格的に出てきたのか、彼女は立つことも出来ず蹲ったまま地面に倒れ込み、痙攣を起こしたように身体を震わす。
腕の中の相棒は、ナマエさまの異変に気付くとびっくりしたように跳び上がり、主人を心配するかのように悲しい声をあげた。



「だ、いじょうぶ…?ヌメラ…」


「ナマエさまこれを、少々辛いかもしれませんが我慢なさってください」



動けないナマエさまの口にクラボのみを含ませる。
つい熱くなってしまった私にも責任はあるが、彼女のこの行動はいただけない。



「ポケモン勝負に貴女様が飛び出してはいけません」


「ごめんなさい、でも…」


「でも、ではありません」



私の瞳を見た彼女はびくりと肩を震わすと、目を逸らしてそのまま何も言わなくなってしまった。
貴女様がとても優しい人だと、わかっている。
また相棒を失いたくないと、思う気持ちもわかっているつもりだ。
けれど。



「ナマエさまに万が一があったら、どうするおつもりですか」


「え…?」


「…貴女様の身を案ずる人もいることを、ご承知おきくださいませ」



今日はもう終わりにしましょう、と帽子の鍔を下げる。
最後に横目で見たナマエさまの横顔は、困惑と落ち込んだ表情が混ざった、悲しい表情をしていた。
少し、言い過ぎてしまったかもしれない。
しかし、ポケモン勝負に人が飛び込んでいけないのは事実だ。
こんなことばかりをしていては、命がいくつあったって足りない。
その事を少し注意するだけで良かったものを、何故あんなにも頭に血が昇ってしまったのか。
私にはまだその理由がわからなかった。




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