来る日も来る日もジムの改造をし続けた私達は、あれからも何度か電力会社の作業員さんから怒られていた。
1番酷かった日は、深夜の時間帯ですら停電を起こしそうになったこと。
そしてその次の日には、お決まりのように電力会社の人から怒られて、時間帯変えれば良いってもんじゃない、なんて至極真っ当なご意見をいただいた。
それでも私達は停電ギリギリの電気量を使っては怒られて、2人で笑ってやり過ごしてきた。
「あっ…!」
「あ…」
だが、この日とうとう私達はやってしまった。
あれだけ電力会社の人達から念を押されていた停電を、真っ昼間に起こした。
これは、絶対に怒られるやつ。
やっちゃったな、なんて思いながら手に持っていた工具を床に置いて、灯りになりそうなものがないか手探りで探す。
ジムの機械室に窓なんかあるわけがなく、昼間といえど電気が消えれば真っ暗だ。
隣に座って同じように作業をしていたはずのデンジさんは、当然見えなくなる。
すると、その隣人の手が肩に触れたと思えば、その人の方へぐいと引き寄せられた。
暗くてよくわからないけど、それをしたのはデンジさんしかいない。
「大丈夫か?」
「え!?…っわ!」
耳元で声がしたから驚いて仰け反ると、私はデンジさんを巻き込みながら、勢い余って後ろにひっくり返った。
床に置いていた工具箱から、中身が散らばる音がした。
すぐそこに自分とは違う体温を感じて、その距離感に心臓が飛び跳ねる。
それは1回で収まることはなく、どくどくと早まるばかり。
どうしよう。
よく見えないけど、多分デンジさんがすごく近い場所にいる。
だって、私がまだ知らない、男の人の匂いがするから。
「ナマエ…?」
「そ、の…大丈夫、ですから…」
どうか、離れてほしい。
このままの状態でいたら、私の心は激しい動悸で壊れてしまいそうだから。
そう願ったのに、私の願いは全然叶わなかった。
暗闇の中で私を探しているかのように、デンジさんの指が頬を撫でる。
くすぐったくても声も出せなくて、まるでゴーストタイプのポケモンが身体の上に乗っているような気分だ。
自分のではない髪が耳を掠め、唇を親指でそっとなぞられたら、彼をさらに近くで感じる。
背中は無機質な床のせいで冷たいのに、頬は真夏の日差しを浴びた時よりも熱く、心臓は外の音が聞こえなくなるくらい煩くて耳に響く。
もう、これ以上は、無理だ。
何も出来ない私が最後にした抵抗は、意味もなく堅く目を閉じることだった。
「…っ!」
唇に何かが触れるか触れないかのところで、パッと電気が点いたのがわかった。
恐る恐る目を開けば、視界いっぱいにデンジさんがいる。
やっぱり、さっきのは。
「デンジ、さん…あ、の」
「ナマエ、何ともない?」
あんなに近くにいたはずのデンジさんは、部屋が明るくなったら、ぱっと何事もなかったかのように離れた。
そして何事もなかったかのように、私の手を引いて身体を起こしてくれる。
この人は、何を言っているんだろう。
あんなことされておいて、何ともないわけがない。
それでも私は、こくこくと頷くことしかできなかった。
両手で口元を隠すと、顔はびっくりするくらい熱を持っていた。
さっき起きていたことを思い返すだけで、息をするのも苦しい。
「…あと、少しだったのに」
「え…?」
「別に、なにも」
そう言ってデンジさんは、口元を手で隠してそっぽを向いた。
たった数分の停電で、いろんな出来事がありすぎて頭も心も付いて行かない。
デンジさんに聞きたいことはいろいろあったけれど、私にはこれ以上彼に何かを聞く勇気も余裕もなかった。
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