暖かい何かに、包まれているような感覚がする。
私がいつの間にか眠ってしまった間に、誰か毛布でもかけてくれたのだろうか。
それに、何だが胸の奥がドキドキするような、それでいて少し安心する匂いがする。
ここに来てから、初めて知った香り。
そんな呑気なことを考えながら、ゆっくりと目を開ける。
「おはよ」
「えっ!?な、何、なんで…?」
少し上から聞こえてきた声で、その暖かさの正体を知った。
私の身体はデンジさんによって、頭を抱えるように包み込まれ、腰に回された手でしっかりと抱き寄せられていたから。
そんな状況に一気に目が覚めて、その腕の中から逃れようと目の前にある身体を押すが、びくともしない。
これじゃあ、私はデンジさんに抱きしめられて寝ていたことになる。
「…覚えていないのか?昨日の夜のこと」
「きのう…のよる?わ、私なにか…?」
ふーん、と言って、少しだけ不機嫌そうに口を尖らせたデンジさんを見て、更に私は混乱した。
そんな言い方、色恋沙汰には少々疎い私にだって、何が言いたいのかくらいわかる。
昨日の夜、私は何をしたんだ。
朝こんな状況になるようなことなんて、本当に、なにをした。
シンオウに来る前のことだったか、群青の海岸の海で溺れた時よりも、頭が真っ白になった。
そういえば酔った酒の勢いで、なんて話を、前に井戸端で奥様方が話しているところを聞いたことはあるけれど、昨日の私はお酒なんて飲んでいない。
というより、それ以前にそんなことがあってはならない。
だって、私とデンジさんは、そんな間柄なんかじゃない。
「…嘘だ、何もしてない」
「なっ…」
ごめんな、と眉毛を下げて申し訳なさそうに笑ったデンジさんに、私は何も言えなかった。
妙な考えを少しでもしてしまったために、かっと顔が熱くなるのが自分でもわかる。
そんな自分があまりにも恥ずかしくて、まともにデンジさんの顔を見れなかった。
そうして私が俯いている間にもデンジさんは、私の髪を、頬をその綺麗な指先でなぞる。
くすぐったくて、もどかしくて、彼が触れた場所全てに電気が走っていくようだ。
「可愛いな、ナマエ」
「あ、の…あんまりからかわないで…」
「からかってない」
そう言って、私の額に頭を寄せたデンジさんの顔は真剣そのもので、とてもさっきみたいに冗談を言っているようには見えなかった。
そんな距離で熱心に見つめられたら、私だってデンジさんから目が離せなくなる。
「…キス、してもいいか?」
ひゅっと息が詰まって、一瞬心臓が止まったと思う。
言葉の意味はあんまりよくわからなかったけれど、今から起こりそうなことが何であるかは予想がついた。
だから何か言わなきゃと思っても声が出なくて、私は小さく頷くのが精一杯だった。
鼻先が触れ合うだけの今だって、私の心臓は破裂しそうなほどどくどくと脈を打っている。
こんなことで、この先起きる出来事に耐えられるのだろうか。
頬に手を添えられて、びくりと身体を震わせるとデンジさんがふと優しく笑った。
その顔に何故か安心した私は、ゆっくりと瞼を閉じる。
互いの唇が重なり合うだけの、初心で優しい口付け。
それは、私の全てを溶かしていった。
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