たまには一緒に出かけよう、とデンジさんに言われた。
いつもジムには一緒に出かけているのに、と思ってそのことを口にすると、少し言いづらそうに今日はジムじゃないところ、と言われた。
珍しいな、と思いながらじっとデンジさんを見ていると、ふいと目を逸らされる。
「嫌だったか?…デート」
「え?」
デートと呼ばれたその外出のことが、私には良くわからなくて聞き返そうとすると、デンジさんはわからないならいい、と言ってがしがしと乱暴に頭をかいてそっぽを向いてしまう。
その横顔は、珍しく赤く染まっていたように見えた。
ナマエはどこに行きたい?と聞かれて私は少し迷ったが、自分の生まれ育ったあの場所にした。
デンジさんは意外、とでも言いたそうな顔をしていたが、ふと笑うといいよ、と言ってくれた。
「ここが、未来のコトブキムラ…」
未来のコトブキムラには、私のいた煉瓦造りの立派な建物は跡形もなかった。
代わりにテレビコトブキという大きなテレビのついた建物が、未来のコトブキムラのシンボルになっているようだ。
ヒスイは遥か昔のシンオウであるのだから、それも仕方がないと思ったものの、少しだけ寂しい気もした。
それから、私達はそのテレビコトブキを見学しようとして、運悪くテレビの人達に囲まれた。
いつもいるナギサシティでは、あまり良い噂を聞かないから知らなかったけれど、実はデンジさんはかなりの人気者のようだ。
だから私が隣にいることが珍しかったらしく、いろんな人から散々質問を浴びせられ見学どころじゃなくなってしまった。
テレビの人達の質問に、付き合ってない、恋人じゃないと、答えるたびデンジさんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
わかっていたことだけれど、それを直接聞くといつもとは違う意味で胸の奥が苦しくなった。
他にはトレーナーズスクールという、ポケモン同士を戦わせるバトルの基礎を学べるところで少しだけポケモンバトルを学んだり、ポケッチというスマホとはまた違う機械を開発している拠点を案内してもらったりと、いろいろあったが未来のコトブキムラを十二分に楽しんだ。
「どうだった?未来のコトブキムラ」
「とても楽しかったです、けど…」
やっぱりあの煉瓦造りの本部がないのは、少し寂しかった。
俯いて小さく呟くと、デンジさんが慰めるように頭にポンと手を置く。
不思議なことに、たったそれだけで私は少しだけ元気になれた。
最後にどうしてもこのコトブキシティを写真に残しておきたくて、スマホを構える。
偶然写真の隅に写り込んだ街の案内板が気になって、その字を読む。
「人が集う、幸せの、まち…」
書かれていた文字を一つずつ噛み締めるように口にすると、自然と涙が溢れ出た。
口元を必死に抑えて堪えようとしても、止まらない。
デンジさんを困らせるとわかっていても、それは私では止められなかった。
「よ、かった…私のムラ、変わってなかった…」
街の外見がいくら変わっていても、私の生まれ育ったムラは何も変わっていなかった。
きっとそのことがわかって、嬉しくて、こんなにも涙が溢れ出てくるんだろう。
今の私は笑いながら泣いている、可笑しな子かもしれない。
それでもデンジさんは何も言わずに、そんな私の涙を指で拭って抱き寄せてくれる。
「帰ろう、ナマエ」
「はい」
デンジさんは私の手に指を絡めると、そっと握りしめてくれる。
私の知らない手の繋ぎ方だったけれど、その手はとても温かくて、私の心を落ち着かせるものだった。
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