ーーナギサの海に、黄緑色の光が浮かぶ。
黄緑色の光が私の側にやって来ると、小さなポケモンの手が私の手を取った。
共に光に包まれれば、ふわりと身体が浮かび上がる。
浜辺にいるデンジさんが何かを言っているように見えたけれど、その声はもう聞こえなかった。



「さようなら」



鐘の音とも違う、不思議な音がナギサの街に鳴り響く。
私とポケモンを包む黄緑色の光が辺りに広がったと思えば、私達は光と共に一瞬で消えてしまう。
それは、全ての始まりだったし、終わりでもあったーー






「…っ!?」



慌てて起きたら、布団が想像以上に捲れ上がった。
完全に起きてない頭を最大限に回転させて、辺りを見回す。
そこはまだ、シンオウで暮らすための私の部屋だった。
嫌な夢だったとわかって、ほっと胸を撫で下ろした。
けれど、その夢がどうにも他人事には思えなくて、同時に妙な胸騒ぎがした。
デンジさんからもらったスマホで、ある番号に電話をかける。
きっとあの人なら、私の行く先を知っているに違いない。











「…いえ、ありがとうございました」



電話を切った途端、もやもやしていた気持ちが急に晴れた。


"ときわたりでやって来た人間は、いずれ元の世界へ帰っていく"


やっぱり、そうだった。
それもそうか、異なる時代の人間がいつまでもここにいて良いわけがない。
つまり今朝の夢は、予知夢だ。
いつこんな日がやって来るのかは正直わからないが、きっとそう遠くないんだろう。
けれど急に元の時代に戻されるよりは、予告を受けてからの方が幾らかマシだ。
気持ちの整理も、つけられる。
これも、ときわたりのポケモンの慈悲なのだろうか。



「…片付けよう」



ヒスイから着けてきた自分のポーチ、デンジさんから譲ってもらった工具の入った箱、こっちでは1回も着ていないギンガ団の隊服。
そもそも急に来てるから、荷物らしいものはほとんどなかったけれど、なるべく1ヶ所にまとめておいた方がいいだろう。
これらをヒスイにちゃんと持っていけるかどうかはわからないが、可能ならば持って帰りたいところだ。
それと、掃除もしておかなければならない。
立つムックルは跡を濁さない、とも言う。
自分を奮い立たせて、意気込んだ時だった。
部屋のドアをノックする音と、今はあまり聞きたくなかった人の声が聞こえてくる。



「ナマエ?今日は一緒にジム行かないのか?」


「き、今日は…やめておきます…昨日、あんまり寝れてなくて」



咄嗟に、変な嘘をついてしまった。
嘘をつくにしても、デンジさんに心配かけないような嘘にすれば良かったものを。
案の定返ってきた言葉は。



「…体調でも悪いか?」


「い、いや全然!ちょっと作業熱中し過ぎちゃっただけなので!」


「ナマエもオレに似てきたな」



扉越しに聞こえてきたその声が、やけに嬉しそうなのが余計に私の心を締め付けて痛める。
なんかあったら電話しろよ、と言って遠ざかる足音が聞こえなくなると、私はその場にしゃがみ込んだ。
正確に言えば、立っていられなかった。
貴方の、そんな嬉しそうな声を聞いてしまったら。



「…帰りたくないよ」



先程固めた私の意志は脆く、たった1人の男の人の声だけでいとも簡単にぼろぼろと崩れ落ちた。




back / next

cover
top