今日は予想外の出来事が多すぎる。
海で人を拾って、ジムリーダーの説明をして、女物の服を買って。
その上、こんなことになるなんて思ってもなかった。
オーバの余計な一言で、人を匿うはめになったのだ。
「…あんまり綺麗じゃないけど」
「すみません、お世話になります…」
ものは大してないが、あまり人を呼べるような家ではない。
どうせ帰ってきても、飯を食って、風呂に入って、寝るだけ。
出しっぱなしの雑誌や工具は、常にそこら中にある。
流石に机の上くらい片付けるかと、散らばった雑誌と郵便物を邪魔にならない場所へとまとめた。
「…ギンナンさんのからくりつづらみたい」
後ろから、そう聞こえて振り返る。
からくりつづらってなんだ、と思いながら彼女の視線を辿ると、そこにはうちのただの白い冷蔵庫。
「ん?冷蔵庫がどうかしたか?」
「あの、触ってみても良いですか?」
冷蔵庫が触りたいだなんて、どういう趣味なのかよくわからなかったが、別に嫌がることでもなかった。
人ん家の冷蔵庫の中身を知りたいタイプなのか、と不思議に思いながら良いよと言う。
だが、彼女は冷蔵庫を開けるわけでもなく、ただ扉や取っ手に触れるだけ。
その後も彼女は、電子レンジを見つけてそれも触りたいと言った。
なんなんだ。
うちの冷蔵庫も電子レンジも、特別何か改造したものではない。
ただの、ごく普通の家電だ。
それを彼女は、まるで冷蔵庫も電子レンジも初めて見るみたいに眺めて触っていた。
「家電、好きなのか?」
「珍しいものが好きなんです、欲しかったけれどなかなか買えなくて…」
「へぇ…」
家電も買えないほどお金がなかった、ということだろうか。
だとしても珍しいものって、今時そんなに家電は珍しいだろうか。
やっぱりよくわからない子だなと、思っていると、短い悲鳴と共に冷蔵庫のドアが勢いよく閉まる音がした。
「な、なんだか、冷たいです…」
彼女が、冷蔵庫の取っ手を持ったまま立ち尽くしている。
悪いと思いながらも、流石に笑ってしまった。
冷蔵庫は食材を冷やすものなんだし、当たり前だろうと言いたかったけれど、彼女の引き攣ったような顔が、ふざけてこんなことをしているわけではないことはわかった。
にわかに信じがたいが、この子は冷蔵庫を見たことないのだろう。
もしくは、それすらも忘れてしまったのか。
「じゃあ、これは?」
リビングのテレビを指差すと、彼女は首を傾げる。
冷蔵庫も電子レンジもわからないなら、テレビだってわからないだろう。
案の定、彼女は恐る恐る手を伸ばし、画面をちょんと触る。
いいタイミングでリモコンの電源ボタンを押せば、画面がパッと明るくなり音が出る。
ああ、ちょうどポケモンけんきゅうの時間か、なんて思いながら見ていると、彼女がびっくりして後退りした。
ここまでくると、なんだか見ているのが面白くなってくる。
「テレビ、見たことないか?」
「ない、です…」
彼女は、どうなってるの?と言いながらテレビの裏側を覗き込んで、首を傾げる。
まさか、本当にテレビの裏側を見るやつがいるなんて。
(この子、面白いな…)
それからオレは、パソコンやらスマホやら、ありとあらゆる電化製品を彼女に見せた。
新しいものを見せる度に彼女は、驚いて、目を輝かせて、興味を持つ。
特に彼女の心を惹きつけたものは、スマホだった。
シンオウの地図を見せてやれば、なぜ土地の形が簡単にわかるのかとびっくりするし、オーバに電話をすれば、閉じ込められたと電話口で騒いでいた。
メールっていう手紙みたいなもんも書けるというと、紙と筆もないのに、と困惑している。
オレのスマホを渡すと、彼女は右手にそっと乗せて興味津々で眺める。
彼女と話してみてわかったことは、今では当たり前のもの全てを、彼女は見たことがないようだ。
忘れてしまったにしては、不自然すぎる。
それにしても、こんなにも電化製品に興味を持つ子がいるだろうか。
「ホント、変わってるな」
「え…っと、すみません…」
「いや良いよ、君とは気が合いそうだ」
古い文献でしか見たことないような服装で、現代のものを何1つ知らない君。
けれど、彼女からはオレと同じように、機械が好きだという気持ちが伝わってくる。
出会って、まだ半日。
それなのに、目の前の不思議な彼女とは、何故か仲良くなれそうな気がした。
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