"ときわたりでやって来た人間はいずれ元の世界に帰る"


その話を聞いたのは、昨日のこと。
2日もジムに一緒に行かないと言った彼女を不審に思い、やや強引にナマエの部屋に入ったら、キレイに整理されていた。
出ていくつもりなんだって、すぐにわかった。
なにが不満なのか、もうここにいるのは飽きたのか。
焦っていろんな考えを巡らせていたら、ナマエはそう言った。
そんなの、よく考えたら十分あり得ることだった。
だが、いざ言葉にされて本人から言われると、受け入れ難い。
それに、オレが最も頭に来たのは。



「…なんで言わなかった」


「あー…いや、その」



ナマエは、オーバからそう聞いたと言った。
けれど、お前はオレにそんなことを一言も言わなかった。
わかってたんなら、言ってくれたって良いだろ。
仮にも腐れ縁とでも言う仲だ。
今更隠すようなことなんて、片手で数えるほどあるかないか。
それなのに、このジムに呑気に遊びに来ていたあいつはその事を今日まで言わなかった。
わかっていれば、諦めだって、多少はついたのに。
オーバを呼びつけて問い詰めると、その赤いアフロを掻いて目を逸らす。
そいつを黙って睨み付けたら、そんな怒んなよ、と言って観念したとでもいうように溜め息を吐き出す。



「そりゃあ、知ってたけどよ」



オーバがスマホを取り出すと、その画面を見せてくる。
そこには、オレとナマエが写っていた。
多分、ジム改造してた時に、機械室でふざけて2人で撮った写真。
楽しそうにオレの隣で笑う彼女が、画面越しでも眩しい。
ナマエが送ってきたんだけどさ、とオーバはその写真を眺めて呟く。



「…こんなにお前ら仲良さそうなのに、言えるわけねーじゃん」


「お前…」



こんな楽しそうなお前見たことねーよ、とオーバは小さく笑った。
ああ、こいつにもわかるくらいに、オレは浮かれていたのか。
そう思うと、かえって気恥ずかしくなった。
さらにオーバは、オレの気持ちをわざわざ確かめるかのように尋ねてくる。



「好きなんだろ、ナマエのこと」



ナマエの前では、理解のあるやつのフリをした。
けれど、彼女を手放す気なんてこれっぽっちもなかった。
だからあの時、ナマエに言いたいことがあったのに、彼女はそれをオレには言わせてくれなかった。
それを聞いたら帰れないなんて、そんなのオレが言いたいことと同じだろ。



「…ああ、もう、手遅れだ」



君がここに来た頃のような気持ちには、もう戻れなかった。




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