目を覚ますと、私は浜辺に打ち上げられていた。
そうか、良かった。
あのポケモンには、食べられなかったんだ。
「君、大丈夫…?」
そう声を掛けられて顔を上げれば、見覚えのある面影の人がいた。
でも目の前にいる人は、私の記憶の中の人と少しだけ違う気がした。
金色の髪、髭もなくて、幾らか若く見える。
「…ギンナンさん?」
「誰?…オレはデンジだけど」
その人はデンジと言った。
ギンガ団でもコンゴウ団でもシンジュ団でもなく、もちろんイチョウ商会の服でもなくて、変わった青い服を着た人。
どこの人ですか、と聞いたらその人は、不思議そうな顔をしながら、なぎさじむのじむりーだーだと言った。
それは、初めて聞いた言葉だった。
「その…なぎさじむのじむりーだーというのは、どういうことをされているのですか?」
「ジムリーダー、知らないのか?」
その人は、とても驚いた顔をした。
私は、そんな言葉を聞いたことがなかったのに、その人にとってはそれがとても珍しい事だったらしい。
すると、その人はじむりーだーの説明をしてくれた。
けれど、私にはその人の言葉が、ちっともわからなかった。
「ポケモンじむ…りーぐ…?」
「…まさかそれも知らないのか?」
首を振って知らないことを伝える。
その時ふと視界に入った、その人の後に広がる見たこともない景色に私はようやく気付いた。
変わった形の建物が、固そうな地面の道の両側に立ち並んでいる。
川もないのに、透明で平たい橋があちらこちらに掛かっている。
行き交う人々の装いは、目の前のその人とよく似ていて、それぞれがいろいろな色の服を纏っている。
そしてなにより、ポケモン達がモンスターボールから出ていて、人間と共に何事もなく歩いている。
目を見張った。
これは、私の知っているヒスイとは違う。
ここでようやく、今の状況がわかってきた。
そうか、きっと異国に来てしまったのだ。
だからこの人の言ってることも、全然わからないんだ。
だとしたら、ここはソノオさんの言っていたガラルというところだろうか、シュンペイさんの言っていたジョウトというところだろうか。
「ここは…何処ですか…」
「ナギサシティってさっきも言っただろ」
目の前の人は、呆れたように溜め息を吐いた。
それでも私の求めていた答えではなかった。
それにもう段々と頭がぼんやりしてきて、何も考えたくない。
そうだ、私は疲れているから、きっと群青の海岸であのまま寝ちゃったんだ。
夢から覚めたら本部に帰っていて、警備隊の人たちに怒られるんだ。
そう思って、手の甲で力の限り目を擦った。
けれど、砂浜の砂が目に入っただけで、夢から覚めるわけでもなく、痛くて涙が滲んできた。
そうか、夢ではないのか。
もうそれほど目が痛いわけでもなかったのに、視界が潤んで目の前がよく見えなかった。
「…事情はよくわからないが、とりあえずナギサジムに来るといい」
そう言ってデンジと名乗った人は、私の手を取って立ち上がらせた。
そして、何事もなかったように、四角い何かを耳に当てて1人喋りながら先を歩いていく。
知らない人に付いて行ってはいけないと、昔はよく言われたものだ。
この人に付いて行って、本当に大丈夫なんだろうか。
そう一瞬は思ったものの、この時ばかりは付いて行ってもしも自分の身に何かがあっても、もうどうでも良いとも思っていた。
一度海で溺れたんだ、もう死んだも同然である。
覚悟を決めて、紫色の服の裾を両手で握りしめれば、海水がぽたぽたと砂浜に落ちた。
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