誰かに呼ばれて戻ってきたデンジさんの横には、赤い髪の男の人がいた。
もこもこと量のあるその髪が、何となく似ているような気がしてその名前を口ずさむ。



「…ペリーラさん」


「ん?オレはオーバだけど?」



そんなわけがなかった。
だいたいペリーラさんは女の人だし。
オーバさんと名乗ったその人は、私を頭のてっぺんから足の爪先までまじまじと見る。
オーバさんの顔が私の顔にずいっと近付いてきた時は、びっくりして思わず後退りをしてしまった。



「変わった子だろ」


「まー、確かに?」



海からきた女の子なんて聞いたことねーよな、と冗談混じりに言うその人を少しだけ睨む。
確かに群青の海岸から来たって言ったけれど、そういう意味じゃない。
そんな私を余所にデンジさんがそういえば、というとオーバさんはオレに買いに行かせるか?なんて文句を言いながら洒落た紙の袋を私に渡してきた。
あの服のままでは風邪をひくからと、オーバさんがここに来る前に呉服屋に寄ってくれたらしい。
見知らぬ風貌の私に、こんな良くしてくれる2人に対して私は少し戸惑っていた。
多分ムラでこんなことがあったら、余所者って言ってみんな遠巻きに見て、噂して警戒して、近寄らない。
けれどこの2人はそんなことなんて微塵も気にしてないようで、私はそれが不思議でならなかった。
着替えてこいと言われて連れて行かれた部屋で袋の中を確認すると、見たこともない黒い袋の付いた上衣と、股引とも違うスラリとした下衣が入っている。
この上衣の柄はピカチュウの顔だろうか。
一通り眺めてから言われた通りに着てはみたものの、特に上衣は私にはやや大きかったようで袖から手が見えなかった。



「おー、似合ってんじゃん」



どうよオレのセンス、とオーバさんに言われたが、初めて着る服では私に彼のセンスとやらがわからなかった。
それでこれからどうすんの、と改めてオーバさんに聞かれてはっとする。
そうだ、私はこの縁もゆかりもない土地でどうすれば良いのだろう。
最も重要なことのはずなのに、自分じゃどうにも出来ない気がして、自然と考えないようにしていた。
彼は不思議そうな顔で、ポケットに両手を入れて私の顔を覗き込んでくる。



「じゃあ、デンジのとこで世話になれよ」


「え…?」


「ここで会ったのも何かの縁、って言うだろ?」



デンジさんに目配せするオーバさんは、なんだかとても楽しそうな…いや、面白がってるような顔をしていた。
何を、と反論しようとすると、デンジさんも大きな溜め息を吐いた。
そりゃあ普通そうなるでしょう。



「大丈夫です、自分で…」


「1部屋、空いている」



少し面倒くさそうに、頭をかくデンジさんの言葉に耳を疑う。
異国の地に来たわりには、都合のいいことばかり次々と起こっていることが逆に怖かった。
だいたい、よく知りもしない男の人の家で世話になるなんて、良いわけがない。
ヒスイにいた頃だって、そんなことをしたことないのに。
言いたいことは山ほどあったが、それを言ったところで何も解決しないことはわかっていた。
死んだも同然、さっき腹を括ったばかりではないか。
意を決して、私はその背中に付いていくことにした。




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