ここは、チャンプルタウンの名物、宝食堂。
普段はごく普通の食堂だが、ある時だけはごく普通の食堂ではなくなる。
秘密のメニューの注文が入ると、店はチャンプルジム応援店となり、ジム戦一色に変化する。
「コラー!アオキさん!シャキッとしなさいよ!」
女将さんから叱咤激励が飛んでくるのも、ジム戦ならではの光景。
今日やってきた挑戦者は、なかなかに強い。
最後の切り札のムクホークを、出さざるを得なくなったからだ。
「え!?えっと、頑張ってくださいっ…あ、ちょっと!」
控えめに聞こえてきた声の方を向くと、
その主と相棒達が戯れているのが見えた。
ある時からここで働いている、店員のナマエさん。
珍しく声援を送ってくれた彼女が気になっていると、自分の視線に気付いたのかぱちりと目が合った。
「ちょっとは、サービスしますかね」
屈伸運動を軽くしてから、挑戦者を真っ直ぐ見据えた。
胸ポケットから取り出したテラスタルオーブを構えると、それに光が集まり輝きが増す。
いつものフォームでそのオーブを投げれば、ムクホークは白く眩い光と輝くクリスタルに包み込まれてその力を発揮した。
「ジムリーダー、お疲れさまでした!」
エプロンを着けた店員が、出来たての焼きおにぎりを置く。
2人前で、火加減はだいもんじ並の強火、付け合わせにはレモンを添える。
自分好みの食べ方。
自分がしょっちゅう頼むから、彼女もすぐにこの注文を覚えたと言っていた。
強火で炙った香ばしい醤油の香りに、一層腹の虫が騒ぎ出す。
彼女と一緒に料理を持ってきた2匹のポケモン達も、何やら食べたそうに見つめている。
「流石、非凡サラリーマンですね」
「…その褒め方は、ちょっと」
「ごめんなさい…でも私、アオキさんのバトル、好きですよ」
彼女の口から出てきた意外な言葉に、つい彼女の顔を見上げてしばらく眺めてしまった。
自分のバトルが好きだなんて、貴女も随分と変わっている。
自分は、彼女が持ってきてくれる焼きおにぎりの方がよっぽど好きなのだが。
「自分は…」
「ナマエちゃーん、追加注文良いかなー?」
そう言おうとした時に、ちょうど別の客が彼女を呼ぶ声がした。
ああそうだ、自分はもう業務外だが、彼女は業務時間内だった。
仕事中の雑談が多いと、上司に怒られてしまうだろう。
自分が目を逸らすと、彼女は少しだけ困ったような顔をしたが、ごゆっくりと丁寧に会釈をして呼ばれた席まで向かっていった。
「貴方のトレーナーの焼きおにぎりは、美味いので好きです」
テーブルの上でじっと自分の焼きおにぎりを見つめていた2匹のポケモン達に、彼女には言えなかったことを伝えておく。
すると彼女のパートナー達は、まるで自分達が褒められたかのように、嬉しそうに飛び跳ねては電気をぱちぱちと放っていた。
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