今日の宝食堂も賑わいを見せる中、焼きざかな定食ご飯大盛り、という注文が聞こえた。
それに女将さんが、あいよー!と元気よく返事をする。
カウンター席の方を見れば、よく見る黒い背中。
その姿を見つけると、私のポケモン達が嬉しそうに駆け寄っていく。
ああ、今日もあの人は来てくれたんだなって、私も少しだけ嬉しくなる。



「アオキさん、いらっしゃいませ!」


「…どうも」



カウンターで彼を見上げるプラスルとマイナンから私へと、アオキさんの視線が移る。
今日も疲れた顔してるな、なんて思いながら温かいお茶を出すと、彼はあ、と何かを思い出したように小さな声を出す。



「すみません、やっぱり追加でいつもの焼きおにぎりを」


「だいもんじ、レモン添えですね?」



はい、と言って彼の表情がほんの少しだけ崩れたのを、私は見た。
これを頼むときのアオキさんは、いつも少しだけ嬉しそうな顔をする。
本当にうちの焼きおにぎり好きなんだな、と思いつつ、そんな彼を見るのが私は結構好きだったり。
うちのご飯を美味しく食べてくれる人は、好きだ。
作った甲斐もあるし、何より幸せそうなその顔に私も元気がもらえる。
アオキさんはその筆頭。
どの料理を持っていっても嬉しそうだし、美味しそうに食べてくれる。
そんなアオキさんを見ているのが、私は好きだった。



「ナマエちゃーん!こっちお願いねー!」


「はいはーい!…それじゃあ、ごゆっくり」



注文を取ったら、後でアオキさんに焼きおにぎりを持って行こう。
きっと、今日も少しだけ笑って、手を合わせるんだろうな。
彼の嬉しそうな表情を思い浮かべて上機嫌になった私は、お盆を手の上でくるくると回して呼ばれたお客さんの元へ向かう。
エプロンに付けたかいがらのすずも、私の今の気分みたいに軽快な音を鳴らした。










結局、アオキさんの焼きおにぎりはタイミングが合わず、女将さんが出していた。
せっかく私が、握って、炙ったのに。
ああ、あの時あそこのお客さんに呼ばれてなければ、なんて恨めしく思いながらお客さんの帰ったテーブルを片付ける。



「…彼女、人気者ですね」


「ナマエちゃん?そりゃあもううちの看板娘だよ!料理の腕だってすごいんだから」


「そうですか」



ふと、アオキさんの声が聞こえて食器を片付ける手が止まる。
忘れてたけど、ここはカウンター近くのテーブル席。
2人の話が多少聞こえてきても、何もおかしくない距離だ。
あの2人が私の話をしているだなんて、一体どんなことを話すんだろう。
少しだけ気になってしまって、悪いと思いつつもなんとなく衝立に隠れるようにして、身を潜めた。



「あの子とはホウエンで会ったの、来てもらってからはますます繁盛してるよ」


「そのようですね」



助かるわ、と女将さんが褒めてくれていたことは純粋に嬉しい。
まあ、キンセツキッチンで働いていたら、突然一緒にパルデアに来てと言われたのはびっくりしたし、相当迷って結局ここに来れたのはまだ最近の話。



「で、アオキさんはどうなの?」


「…何がですか」


「ナマエちゃんよ!聞くってことはそういうことなんでしょ?」



あの子は相当人気よ、と女将さんの声が急に小声になる。
2人の話が少し気になって聞いていれば、まさかそんな話になるなんて。
アオキさんが困ってそうだから女将さんもその辺でやめてあげて、と心の中で叫ぶ。



「…いえ、特には」


「またー!」



女将さんだけが楽しそうに笑っている。
だよね、アオキさんに限ってそんなことないよね、と思いつつ、なんとなく寂しい気持ちにもなった。



(特には、か…)



まあ、それもそうか。
アオキさんはうちの常連さんで、私はそこの店員だ、何かある方が余程のことだろう。
いや、そんなことよりも今は仕事中だった。
余計なことを考えてないで集中しよう。
止まっていた手を動かして一気にテーブルを片付けると、また別のお客さんに呼ばれた。
私は、元気よく返事をしてさっきの話は忘れることにした。




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