お昼時間の営業が一旦落ち着き、夜の営業に向けての準備や仕込みをするような時間帯。
女将さんに、今日の分の材料を切らしそうだから買ってきてちょうだいと言われて、ベーカリーオルノまで歩いて行ってきた。
普段は業務用で仕入れているけれど、急だったから仕方がない。
それにこの街は、うち以外にもたくさんの飲食店が立ち並ぶ。
主に食材を取り扱うベーカリーオルノさん、缶の大将さん、オーラオーラさんには、どこの店も良く世話になっているようだ。
渡されたメモ用紙に書かれていた食材を抱えて店を出ると、見知った顔のあの人が目の前を歩いて行く。
こんな時間に珍しいと思って声をかけようとする前に、私のポケモン達が彼に駆け寄っていった。
どうやら、常連の彼には随分懐いたようだ。
おうえんポケモンの2匹は、きっと彼を応援するのが好きなんだろう。



「アオキさん!」


「どうも、貴女でしたか」


「うちの子達が…すみません」



ちゃっかりとアオキさんの両肩によじ登る私のプラスルとマイナン。
降りなさい、と注意したものの言うことを聞かない2匹に嫌な顔もせず、構いません、と言ってくれるアオキさんには頭が上がらない。
でも、プラスル、アオキさん、マイナンの2匹と1人の顔が一直線に並んだこの状況が、ちょっと可愛いかもしれないと思ったのは、内緒にしておこう。
私が手に抱えた荷物を気にして、店まで持ちましょう、とアオキさんは言ってくれた。
申し訳ないから全然重くないと断ったのに、ひょいと荷物を持ち上げられて、これが重くないのですか、と真顔で言われたから黙って手伝ってもらうことにした。



「そういえば、貴女のポケモンはこの辺りでは見ませんね」


「この子達はホウエンから一緒に来たんです…あ、私ホウエンの出身でして」


「先日のコイル焼き、キンセツ…名物と仰いましたか」



貴女のいた街なんですか、と聞かれた。
どうやら何気なく私が話したことを、アオキさんはわざわざ覚えていてくれたようだ。
その事がなんだか嬉しくて、つい元気の良い返事をしてしまったことが少し恥ずかしい。
それにプラスルとマイナンまで、同じように私の真似をして返事するから、余計に恥ずかしくなって笑って誤魔化した。



「キンセツシティ…いえ、ホウエンの料理にも興味があります」


「あはは…そう言っていただけると嬉しいですね」



またの機会に紹介してください、とアオキさんがあまりにも真剣な顔で言うから、多分これは本気なんだろう。
そんな彼を見ていたら、次の賄い担当の日は何を振る舞おうかと、少しだけ真剣にメニューを考えようと思えた。
こうしてアオキさんとたわいのない話をしていたら、あっという間に食堂まで戻ってこれた。
女将さんに頼まれた食材を一緒に届けて、一足先に店から出て行ったアオキさんに、お礼を言おうと彼の元へ向かう。
すると私を待つ間、彼はプラスルとマイナンと遊んでいてくれたようで、私の相棒達を撫でていた。
そんな優しい光景に思わず口元が緩む。
私のポケモン達とも仲良くしてくれるなんて、ああ見えて結構優しい人なんだな。
2匹とも嬉しくて楽しくて電気をぱちぱちさせるから、ちょっと困っているようだけれど。



「ごめんなさい、この子達すぐ電気出すから…」


「いえ、大丈夫ですので」



電気はあまり得意ではないですが、と聞こえたけれど、本当に大丈夫だろうか。
もう戻ってきなさい、と2度目の注意をするとプラスルとマイナンは不服そうな顔をしながら、アオキさんの肩から降りてきた。



「お忙しいのに手伝ってもらっちゃって、ありがとうございます」


「お気になさらず」


「あの!」



次の仕事があるのか、チャンプルタウンを後にしようとする彼に声をかける。
なにか、と振り返ったアオキさんに、私と2匹は大きく手を振った。




「今日も、ご来店お待ちしてますので!」


「…はい、後ほど」



そう言ったアオキさんは、ほんの少しだけ笑っていた気がする。
あれ、今日の私はなんともないな。
彼の黒い背中を見送ると、私達も仕事に戻るよ、と足元の2匹達と店へ戻った。




back / next

cover
top