Sucreve
元カレ埋める
元カレ埋める流行に乗ろうとしたけど多分本流じゃないこれ。
杉元と元カレ埋める話。若干のグロ注意。
夢主がとても意欲的。
杉元視点。
気になっていた子から「頼みがあるから車で来て欲しい」と連絡があった。肌寒い三月頭の、夜八時を過ぎた頃の事だった。
二つ返事で車を飛ばして彼女の家に行くと、彼女は見た事の無い男の死体と一緒に俺を待っていた。
案内されたリビングは荒れていて、男が一人横たわっている。その頭は赤黒く、毛足の長い白いラグにはきらきらした細かな欠片と赤い点々が散らばっていた。
「……あの、えっと」
何から聞いていいんだろうか。彼女は至極平然としているし、死体は当然ながら何も言わない。言葉を選ぶ俺に、彼女は「単刀直入に言うと、殺しちゃったので埋めに行きたいので手伝ってください」と、やっぱり平然としたまま言った。
◆
コンビニで氷と酒とつまみと、ゴミ袋を買った。本当は酒もつまみも要らないんだけど氷だけ買うと怪しいんじゃないかということで買ったのだ。
彼女の家に戻り、風呂場で男をゴミ袋に詰める。氷を一緒に入れて、少しでも腐敗を抑えることにした。
「明日、朝スコップとか買いに行こう。それで夜、埋めに行こう」
「うん。ありがとう」
「いいよ。……飲む?」
「……うん」
俺が差し出した酒を彼女は受け取った。「つまみも買って来たから」と差し出すと「杉元くんは優しいね」と嬉しそうだった。
彼女はぽつりぽつりと何があったか話してくれた。あの死体は元カレなのだという。向こうからアタックしてきたから付き合ったが浮気や金の無心がひどく、別れたのが数年前。
そのまま音信不通になったと思いきやどこからどう聞きつけたのか彼女の家にやって来て、また金の無心をしたのだと。当然断る彼女に男は激昂し言い合いになった。更にお互いヒートアップして、もみ合っている内に殺してしまったのだと。凶器は側にあった酒瓶らしい。押し倒されて咄嗟に掴んだのだとか。それがあのきらきらした欠片かと納得した。
下手に攻撃して反撃をくらうのは嫌だった彼女はそのまま何度か男の頭を殴ったらしい。男が完全に動かなくなってから、やっと安心して、我に返ったという。
「それで、こういうの手伝ってくれそうなの杉元くんしか思いつかなかったから」
「そ、そう……」
水割りを手にそう言う彼女の目は遠い所を見つめていた。その先には緑色したカーテンがただ揺れていた。
◆
深夜の山道を走る車には俺と彼女と、死体。死体は大きなビニール袋に入っているけど、どうも臭いがひどい。窓は閉められなかった。全開にした窓から入って来る夜の空気は冷たくて、彼女は首に巻いていたストールを身体に巻き付けていた。
あれから彼女と夜を明かした。こんな状況だとはいえ、彼女と過ごせる事が嬉しかったし楽しかった。彼女が「警察行った方がいいかなぁ」と呟いたのは止めた。こんなクズの為に君が罰を受ける必要は無い、と。彼女に会えなくなるのが嫌だったというのもある。
酒が進むにつれて死体の事を考えなくなり、どうでもいい話をしていた。深夜はテレビも観るものが無いから彼女のパソコンで動画を観ていた。犬や猫の微笑ましい動画だった。ついさっき人を殺したなんて思えず、またこれから死体を埋めに行くだなんて考えられないくらい穏やかな時間だった。
朝になり、彼女と近くのホームセンターへ向かった。軍手とゴム手袋とスコップと石灰。それにライトを買う為だ。勿論それだけでは怪しいのでガーデニングをするんですという顔でプランターや土、苗も買った。花と野菜だ。彼女の判断だったが元々興味はあったらしい。いい機会だからとまとめて買っていた。
彼女の家に帰って、一旦買って来たものを置いた。そして今度は近くのショッピングモールに向かった。血で汚れたラグの代わりが欲しいのだという。
ガラスの欠片も散っていて危ないからそれは当然だね、と納得したら、彼女はラグとついでにクッションを買っていた。
そのままフードコートで昼飯を食べて帰宅して、彼女は「夜まで暇よね」とプランターに土を入れて買って来た苗を植え始めた。確かに暇なので手伝うと彼女は「助かる」と笑ってくれた。
彼女の家のベランダにプランターが四つ増えた。二つは野菜で二つは花だ。何という花だったか名前は見ていないからわからない。野菜はトマトとキュウリだ。夏になったら冷やして食べるのだと。たくさん出来たら呼ぶね、と言ってくれたので期待しようと思う。
水を与えられて、どこか心地良さそうな苗達を見て、彼女は満足そうだった。
そんな明るく穏やかな昼間の話が嘘のように、暗い山道を車は進む。
不意に彼女が「あ」と言ったので「どうしたの?」と聞き返すと、彼女は「刃物とか、ペンチとか、買うべきだった」と呟いた。
「何で?」
「身元バレたらあれだからさ、歯と指先どうにかしたいなって」
「ああ、そっか」
確かに身元判定には歯の治療痕だとか指紋だとかを使うっけか。そんな事を思う。
「……指はさ、スコップで、こう、押し切るようにしたらいいんじゃないかな」
「いけるかなぁ」
「きっといけるよ。……ダメなら、折って千切るから」
「え、いいの?出来る?」
「うん。きっと大丈夫」
「じゃあ指はそれでいいとして、歯はどうしよう」
「それも折ればいいんじゃないかな」
「折れるかな」
「殴って歯が折れる事もあるから、折れると思う」
「あー、そっかー」
「何なら、スコップで砕こうよ」
「スコップ万能説」
「そうだね」
くすくすという二人の笑い声が車内に満ちた。
そんな物騒な事を話しながら車は進み、県境を越えた何処かの山の中を走る。山頂に近い所で、この辺でいいかな、と車を止めた。
園芸用の、肘まであるようなゴムと布で出来た手袋をはめて袋ごと死体を担いで藪を進む。彼女がライトで先を照らしてくれはするが、藪の中なのでそこまで意味は無い。担いだ袋は冷たくて、溶けた氷のせいだろう、歩く度に背中からばちゃばちゃと聞こえた。
「ごめんね、力仕事任せちゃって」
「平気だよ」
車道からだいぶ離れたところに死体を下ろした。ここでいいかと穴を掘り始める。
「疲れたら言ってね?代わるから」
「うん」
そうは返したが彼女にやらせる気はなかった。彼女に代わったところでスピードが上がるとも思えなかったし、これくらいでへばるような男だと思われたくなかった。
彼女がその手で人を殺め、その証拠を隠滅しようとしているというのに、彼女を想う気持ちを止める事が出来なかった。
傍から見れば馬鹿な事だろうが、それでも彼女と過ごした時間は楽しくてたまらないし、もっと彼女といたいと思えた。
ざくりざくりとスコップを土に刺し、そのまま固い土塊を掘り返す。男は無駄に身長が高かったので、それなりの広さが要った。
それに、動物に掘り起こされたりしないように深さも要った。彼女と過ごしている間に暇だったから少し調べてみたけれど、死体はどうしてもガスが発生する。それはコンクリートも割れるくらいだと。だから出来るだけ深い所に埋めないといけない。でないと土も盛り上がってしまうんじゃないだろうか。また、そこから動物が気付いて掘る可能性だってあるだろう。だから、深く。
合間に彼女と適当な話をしながら掘って、腰くらいの深さになった。彼女が「もういいんじゃないかな」と言ったので死体を埋める事にした。彼女の元カレを。
ビニールは分解されないし、腐敗の邪魔になってはいけないので死体だけを穴に入れる。何と表現していいのかわからない臭いが鼻をついて、顔を背けた。
「土かけるの手伝うよ」
「待って、その前に」
きっと彼女も臭いが嫌だったのだろう。さっさと埋めてしまいたいようだったがそれを止めた。
死後硬直の解けた男の手を開かせて、指先をスコップの先で押し切った。切ったけどこれどうすればいいんだろう。彼女の方を見ると、「それは生ゴミに捨てるよ」と言ったので渡した。死体が入っていたのとは別のビニール袋をどこからともなく取り出して十個の小さな指の欠片を入れていた。
「やっぱり刃物あったらよかったね」
「これでも切れたよ?」
「ううん、刃物だったらわざわざ持ち帰らなくてもずたずたにし
ておけばいいなって」
「ああ、そうか……」
確かになぁ、と納得した。買い物の時にもっと考えておけばよかった。考えの足りない男だと思われていないだろうかと少しだけ不安になった。
今度はスコップの先を男の口に当てて、体重をかけた。下顎が割れて、取れた。
「……あー。折れるとは思うんだけど、拾う?これ……」
「うーん……」
ちょっと面倒かもしれないと彼女が困った顔をした。そうして「……スコップでぐちゃぐちゃにしたら大丈夫かなぁ」と呟いた。
「それか、顎だけ持ってくか」
「それならいいかなぁ」
取れた下顎を彼女に渡し、出来るだけ余計な肉が入らないように再度狙いを定めて上顎を削るようにスコップを刺した。
取れた、とその肉片を彼女に渡す。しかし彼女はやっぱり嫌だったのか、歯をゴム手袋に包まれた動かしにくい指先でつまもうとしていた。
「いけそう?」
「うーん……」
彼女は近くに落ちていた木の枝を握るとそれでどうにか取れないかと枝先で歯を抉るように動かした。
「あ」
取れた、と彼女が言った。取れるなら歯だけ持って帰ればいいねと言えば彼女は頷いた。
死体の腹に狙いを定めてスコップを突き立てる。ぐちゅりと肉を潰すような、水袋に穴を開けるような音がして、死体の腹に傷がついた。
「これでガスが溜まりにくいと思う。そしたら石灰撒こう」
「うん」
何かで、石灰を撒くと早く白骨化するのだとか聞いた事があるからやっておくことにした。本当に速まるかどうかなんて知らないし、速めたところで彼女が人を殺し、俺がそれを埋めている事に変わりはないのだけど。
顎をまた穴に戻して、袋の中身をぶち撒けるようにして石灰を死体の上にかける。死体は白と黒と赤が混じって気味が悪い見た目になっていた。そうしてから彼女と一緒に土をかけて、埋めていく。
「……そういえばさぁ」
ふと、気になった。
「コイツが死んで、警察の捜査ってあるのかな」
もしコイツが人望があるだとか、捜索願が出されるだとかで、事が早く露見しないか、彼女に疑念が集まるのではないかと不安になって、そう聞いた。
けれど彼女は「大丈夫だと思う」と言った。
「コイツ、クズだからさ。私が別れた後もコイツの私物どうしようか悩んで知り合いに聞いてみたんだけど、その知り合いも『アイツに関わりたくねーから知らん』って言ったのよね。だから人望は無いと思う。ていうかそうでなけりゃ数年前に別れた彼女の所に金の無心なんて来ないでしょ。もっと近くの人に聞くでしょ」
「でも近くの人に頼んで、後々面倒になったら嫌だから来た、って可能性もあるよ?」
「あー……そうね。でも、関わりたくないって思われてたんならきっと大丈夫だよ」
うん、と彼女は頷き、土をかける。確かに、それなら大丈夫か、と思った。
さっきは掘り出した土を、今度は穴に戻していく。そんな拷問があったっけと記憶の隅で考えた。
彼女が土をかけるのを手伝ってくれたおかげであっという間に死体は見えなくなった。これでいいだろう、とビニール袋やスコップなんかを持って車に戻り、一息ついた。来る前にコンビニで買っていたコーヒーを彼女と飲む。すっかり鼻が麻痺したのか、コーヒーの匂いしか感じなかった。
「疲れたね」
「ね」
「ごめんね、こんなのに付き合わせて」
「ん?いや。いいよ」
気にしてないよと言うと彼女は言った。
「お礼って言ったら何だけど、私をあげる」
「え」
その言葉の意味が上手く飲み込めず、代わりにコーヒーを飲んだ。彼女は俺の方を見ずに、ぽそりと続ける。
「ごめんね。杉元くんの気持ちわかってた。杉元くん、私のこと好きでしょ」
「…………」
図星を突かれて、返す言葉が無い。どうしていいかわからずいると彼女は俺の方を見た。その目は穏やかで、今し方罪を犯したようには見えなかった。穏やかな目に負けないくらい穏やかな声で彼女は続ける。
「だから利用したってのもあるんだ。ごめんね」
申し訳なさそうに、彼女は言った。更に「……いらないか、こんな汚い女なんて」とその表情のまま、重ねた。
「いる」
咄嗟に声が出た。そんなことで彼女を嫌いになれるはずなんてなかった。俺はずっと彼女の事が好きだったんだから。
すると彼女は一瞬無表情になって、すぐに破顔した。その顔がやっぱり可愛くて、好きだなと思えた。
「私の事、貰ってくれる?」
「勿論。……俺達、一生共犯者だね」
そう言うと、彼女は「素敵なプロポーズありがとう」と嗤ってくれた。
「帰ろっか」
「うん」
車に乗って、来た道を帰る。来る時真っ暗だった山道は、昇り始めた日で暖かな色に照らされ始めていた。
終.
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